医学界新聞

在宅ケア実践を学術的に進めていくための研究をめざして
日本在宅ケア学会が設立される


 日本在宅アケ学会(設立発起人代表=東医歯大教授 島内節氏)の発会式が,さる2月17日,東 京医科歯科大学講堂において開催された。参加者は,看護職141名,医師41名,学生30名など287名であっ た。
 日本在宅ケア学会は,「一層拡大する在宅ケアの内容の充実,質の保証,システム,評価などに ついて研究する必要性が高まっているものの,多様な研究分野を統合化したり,本格的に理論化し体系化 していくのはこれからであり,在宅ケアの実践をよりよい方向に,より適切な方法で進めるには,多様な 職種間と国民との合意形成を基盤として学際的に進めなければならない」との考えに基づき,「研究成果 を蓄積し,体系的に発展させていくことによって在宅ケアの観点から国民の健康と生活を支えること」を 設立趣旨としている。

重要な実践家と研究者の協力

 設立発起人を代表して挨拶をした島内氏は,学会設立にあたり在宅ケア実践を学術的に進めていくた めの研究課題として,(1)在宅ケア利用者の拡大:寝たきり予防,ぼけ予防からターミナルケアまで拡大し, 自立への促進とQOLの向上をめざす研究,(2)利用者の権利擁護と相談機能の強化,住民参加型在宅ケア, (3)24時間ケアの体制づくり,(4)在宅ケアと関連サービスの充実のためのマンパワー,(5)アセスメント・ ケアプラン能力の向上,6ケアマネージャーの養成とサポートシステム,7在宅ケアの評価と監査システム, 8社会資源の開発と改善,9チームケア・ケア会議の運営,10教育・研修の体系化と充実の10項目を掲げる とともに,これらの課題に対し「実践家と研究者が協力しあっていくことが重要」と述べ,学会への抱負 と期待を語った。 また理事,監事,評議員の選出が行なわれ,設立発起人らを中心に34名が承認された が,理事長は3月23日に開かれる理事会の互選により選ばれる。

「在宅ケア学」の確立をめざして

 発会記念のシンポジウム「これからの在宅ケアの研究と実践の発展課題」では,高崎絹子氏(東医歯 大教授),前田信雄氏(聖学院大)の両座長から,「在宅ケアの実践と研究活動には多くの専門職の協力 が必要であると同時に,行政と民間,一般市民の参加も不可決という多領域にわたる学際的な性格が特徴 であり,多くの領域からの発言を期待したい」との意図が述べられ,4人が登壇し,それぞれの立場での 意見を述べた。
 杉山孝博氏(川崎幸病院副院長)は,「在宅ケアにはこれまでの外来医療や入院医療と異なった 視点での,普遍性を持ち相互批判に耐えられるような“在宅ケア学”の確立が必要」と強調した。
 伊藤日出男氏(弘前大医療短大教授)は地域リハビリテーションの立場から,地域リハビリのこ れからの課題として,「生活の場に見合った,医療機関とは違った障害者・家族への指導方法であり,住 宅の改善や用具の工夫も必要」と指摘し,多職種間の共同研究を進めることを提唱した。
 看護の立場からは川村佐和子氏(東医歯大教授)が登壇。「この学会の特徴は,医学,看護学, 家事学などから,土木・工学,経済学,法学まで広範囲な職種が共通の尺度を持つことにあり,これらを 並列化するのではなく1つに統合し理論化する必要がある」と“在宅ケア学”に対する考え方や意義につ いて述べた。
 前田大作氏(日本社会事業大)は,社会福祉の立場で「これから」の在宅ケアについて,これま での在宅ケアと対比しながら全体像を予測。「シルバー産業の台頭が急速に進む」,「ケアマネジメント の体制確立が急務」などを予想される問題としてあげた。
 なお,第1回の学術集会は明年1月18日に東京大学山上会館で開催の予定。学会入会等については 下記まで問合せのこと。
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