医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


併用による相乗効果への初めての学理的説明

Biochemical Modulationの基礎と臨床 金丸龍之介,小西敏郎 編集

《書 評》塚越 茂(癌研顧問・前癌研究所癌化学療法センター)

 このたび医学書院より,金丸龍之介・小西敏郎両氏編集による『Biochemical Modulationの基礎と 臨床』が上梓された。いうまでもなく,癌治療の基本的治療法である外科療法,放射線療法,化学療法の うち,化学療法は進行癌を対象とすることが多い。これまでの癌化学療法の歴史の中で,癌化学療法は抗 癌剤単独によるよりも,作用機序の異なる種類の違う抗癌剤を2種類以上併用することの有効性が大きく なることが経験的にわかってきた。

新しい試み含め洩れなく記載

 本書の冒頭には金丸氏による基礎総論が記載されているが,その中でBiochemical Modulationの沿革が 述べられている。このBiochemical Modulationということばは1977年,米国のBertinoらの報告によるメトト レキセートと5-フルオロウラシルの併用時の作用機序の研究から名付けられたものであると述べられて いる。その意味でBertinoらの仕事は,経験的にはすでに癌の多剤併用療法は行なわれていたが,併用によ る相乗的効果の発現について,学理的な説明が加えられた最初のものといえよう。その後も数多くの併用 療法において,生化学的ないし薬理学的作用機序が基盤となって効果の増強ないし副作用の軽減につながっ てくることがわかったわけである。
 本書はこのような研究の流れについての総論から始まり,基礎編では現在すでに臨床的に応用さ れている,メトトレキセートとロイコボリン,メトトレキセートと5-フルオロウラシルのような併用療 法から,研究が進んでいる各種の併用療法に関する新しい試みまで洩らさず取り上げられている。したがっ て基礎研究者や臨床家はもとより,癌の新しい併用療法についての研究の実態を知るうえで有用なもので あろう。
 また,臨床編で大切なのは,癌の種類ごとに実際に試みられているBiochemical Modulationによる 治療法の解説がなされていることである。基礎編で理論的な裏付けを知り,それが臨床的にはどのような 展開をみせているかが本書を読めば充分な情報を得られると思われる。

類書の多い中での本書の独自性

 一言したいのは,上述したように,本書の特に基礎編で,すでに癌治療の分野ではごく一般的に実地 応用されている併用療法から新しい併用療法に関する試みまでが同時に記述されていることである。読者 も臨床編をみれば,そのような基礎的研究の中から,どのような併用療法が実際に利用されていて,一般 的にも受け入れられているかはわかることではあるが,研究途上にある併用療法などの新しい試みは,別 項を立てて述べられた方がより良かったのかもしれない。
 併用療法に関する類書は多い中でBiochemical Modulationの観点から記述された書籍は少なく,上 述したように意義深いものである。また本書はB5版,ソフトカバーとなっていて読みやすく,これから癌 の併用療法について知ろうという方にはもちろん,癌治療の専門家,癌治療に関心のある臨床家にとって も有益な書といえよう。
(B5・頁240 定価5,974円(税込) 医学書院刊)


実用的であるとともに不整脈への興味も湧かせる

一目でわかる不整脈 比江嶋一昌,飯沼宏之,小坂井嘉夫 著

《書 評》橋場邦武(長崎大名誉教授)

 3氏共著の本書を,不整脈を勉強しようとする医師・学生・看護婦などの方々に広く推薦したい。 本書は索引まで入れても100頁に満たないが,A4版の大きさで,手に取っても軽く,親しみのもてる造本 であるばかりではなく,内容も簡潔で理解しやすい。

1つの項目が左右見開きで完結

 本書の大きな特徴は,40の項目が総て左右2頁の見開きで完結されていることである。発作性上室頻 拍,心室頻拍,WPW症候群だけが4頁にわたっているので,実質的には37項目であるが,不整脈の最新の 知識が要領よく2頁の見開きに収められているので,全体を概観しやすく,必ずしも第1頁から通読しなく ても,必要な項目を百科事典的にも利用できる。
 その内容は,「一目」という言葉の反面として,やや安直で内容不足にもなりやすいのとは異な り,1項目2頁でありながら非常に本格的で程度も高い。評者の印象では,むしろ不整脈全体を一目で見渡 せるという意味での「一目」と感じた。これは著者らの本書に対する意気込みと見識によるものと思うが, 著者らの組合せも優れている。

最前線で活躍してきた著者たち

 比江嶋氏は長く臨床家として,カテーテル心腔内電位記録によるいわゆる臨床心臓電気生理の本邦に おける先駆者の1人として優れた研究者のグループを育てあげ,また,カテーテル・アブレーションでも 常にリーダーの1人として活躍して来られた。飯沼氏は特に不整脈の薬物治療に経験と造詣が深いばかり ではなく,米国留学中から帰国後にも続けられた実験研究で不整脈の基礎知識が深い。小坂井氏は国立循 環器病センターにおいて不整脈の非薬物治療の経験が豊富なばかりではなく,最近の心房細動のいわゆる maze手術においては世界でトップクラスの成績を挙げている最先端の不整脈外科医である。
 この3人の協力が生かされて,それぞれの不整脈について,短い概説,心電図診断,鑑別診断, 臨床的意義,治療などの核心が述べられ,また,精選された鮮明な心電図の実例とその解析の提示は,心 電図教科書の大前提と思われるが,その点でも本書は読者の期待を裏切ることがなく,心電図をよく見る ことによって学ぶことも教えてくれる。

循環器専門医にも知識の確認に有用

 本書の最初には,刺激伝導系と心筋の電気生理,不整脈解析法,ホルター心電図,臨床電気生理検査, ついで不整脈の各論が続き,最終の第15章では,不整脈治療の概説の後に,I群からIV群などの各抗不整 脈薬の種類,薬理学的特徴,臨床応用までが要領よく述べられ,さらに,薬物の催不整脈作用まで,それ ぞれ1章ずつ説明されている。また,非薬物治療として,心臓マッサージ,直流通電,ペースメーカー, 除細動器,心房細動までを含む外科療法についてその成績までが述べられており,最新の不整脈教科書と いうことができる。しかも「一目で」という分かりやすさも満足されている。学生,研修医,一般医家は もちろんのこと循環器専門医も手元に置いて知識を確認するのに有用と思われる。なかなかに歯ごたえの ある本ではあるが,看護婦さんなどでも輪読会などで利用すれば,十分についていくことの出来る教科書 と思う。実用的であるとともに,不整脈への興味を教える教科書として広く推薦する次第である。
(A4・変・頁100 定価2,884円(税込)MEDSi刊)


手元に置いていつでも参照したい大著

心臓病学 石川恭三 総編集

《書 評》山田和生(名大名誉教授,名鉄病院長)

 この度,医学書院より石川恭三教授の総編集のもとに『心臓病学』が出版された。名前は異なっ ているが,1979年に同教授の編集のもとで『新心臓病学』が出版され,1986年にその第2版が出ている。 石川教授によると本書はその流れを受け継いだもので,第3版とも云うべきものである。1979年の『新心 臓病学』は,9名の執筆者が担当し,極めて広汎な内容が総頁数688頁にまとめられていた。当時の最新の 知識がコンパクトに記載されており,私自身も手元に置いて何か疑問な事があると参考にさせて頂いた。

新進気鋭の研究者が編集に加わる

 この度の『心臓病学』は執筆者が260名余りと云う膨大な数になり,総頁数も2066頁という大著に生 まれ変わった。執筆者が増えたことで,それぞれの記述がより詳細にかつ新しくなったことは云うまでも ない。また,石川教授を補佐する意味で7名の新進気鋭の研究者が編集に加わっている。このような点か ら見ると本書は,1979年の『新心臓病学』の系譜というよりは,全く新しい著書と考えるべきであろう。 初版ともいうべき『新心臓病学』では疾患ごとに分けて記載されており,終わりに循環器疾患の治療と外 科的治療がまとめられていた。
 この度の『心臓病学』では従来の疾患別記述に加えて正常心血管系の構造と機能が解剖・心臓電 気現象・心臓生化学・加齢に伴う変化に分けて書き加えられている。さらに,診断への基本的アプローチ として,各種検査法の解説に加えて患者への接し方・打聴診等も記載されている。特に,日野原重明先生 が長年の先生自身の臨床経験に基づいた患者への接し方や病歴の取り方を記述されている点は,他書には 見られない大きな特徴と言えよう。
 またこれらの検査法は,心血管系の検査法として別章に詳しくまとめられており,心電図検査の 項では,比較的新しい検査法である体表面電位図・冠血管内心電図・心磁図等も紹介されている。さらに, 血管内エコー法・MRI・DSA等についても最新の知見が紹介されている。
 疾患についての記述は筆者が増加した分,より詳しく充実したものになっている。心血管系の治 療薬,外科的治療法および心臓移植についても最新の知識が記述されている。

トピックスも紹介する

 本書のもうひとつの特徴として,循環器領域に関してのトピックスが紹介されている点がある。例え ば病態に関しては,Stunned Myocardium,再灌流障害,エンドセリンが,運動と関連してAnaerobic Thresholdが,新しい治療薬としてナトリウム利尿ペプチド,プロスタグランディンが,診断に関連してモ ノクローナル抗体と24時間血圧測定が,治療に関連してカテーテルアブレーション,植込み型除細動器, 冠動脈形成のための新しい器具と手法等が記載されている。これは,他書には全く見られない新しい企画 であるが,トピックスは時代の流れとともに変化するので,これらの現在のトピックスを掲載したことは, 1つの冒険であると考えられる。恐らく,これらのトピックスがトピックスでなくなる時期には新しい出 版が計画されるのであろう。石川教授をはじめ編集者各位の本書にかける意気ごみが見られ,敬意を表す るものである。
 さらに,図譜のうちカラーで示した方が良いものは本書の最初にまとめられ,59の綺麗なカラー 図譜が示されているのも読者にとってありがたい。
 上述のように本書は従来の教科書に比べ記述が充実しているのに加え,文献も充実しているので, 臨床あるいは研究の場において手元に置き,疑問が出てきた時に参考にするには適当な著書であると考え る。石川教授が本書の序に書いておられる如く,本書は教授のライフワークのひとつであり,世界的名著 であるHurst教授の『The Heart』に匹敵する教科書と云えよう。
(B5・頁2120 定価60,770円(税込)医学書院刊)


患者教育の重要性と実際を詳細に記載

喘息 QOL改善をめざした新しい治療の流れ 石原亨介 編集

《書 評》足立 満(昭和大教授・内科学)

 気管支喘息が慢性気道炎症と認識されるようになってから,かなりの時間を経過しているにもか かわらず,第一線における喘息治療は必ずしもdrasticに変化していない。いやかなり変化しているのでは あるが全体として治療の大転換という状況には至っていない。旧態依然とした治療法でも入院しないで済 む程度にはコントロールできる,と考えている第一線の医師が大多数ではないかと疑いたくなるほど,吸 入ステロイド薬販売量は比較的緩徐にしか増加していない。

実地医家を意識

 本書は吸入ステロイド療法を成人喘息治療の根幹にすえ,著者らの治療実績をもとに実地医家を意識 してβ刺激薬吸入剤,徐放性テオフィリン薬,抗コリン薬,そして経口ステロイド薬をいかに使いこなし ていくかをわかりやすく実践的に記載してある。実際の外来で,吸入療法をどのように患者に指導していっ たら良いか,今迄様々な文献や印刷物を見て吸入ステロイド薬を用いたくても仲々実践できなかった実地 医家や若手医師は少なくないのではないだろうか。
 本書は吸入指導のチェックリストをはじめとして,患者教育の重要性と実際が詳細に記載されて いる極めて実践的な教科書である。
 私は阪神大震災の2か月後,ご多忙な石原先生に無理をお願いして直接ご講演を拝聴する機会を 得た。感銘を受けた講演の内容がさらに詳細に記述され,本になっているという印象を受けた。
 吸入ステロイド薬の効果は明らかであるがまた限界もある。しかし成人喘息患者のQOLを真剣に 考えれば現時点でのbest choiceはBDPの吸入と必要に応じた他の薬剤の併用である。これらのことは英国 をはじめとしたヨーロッパ諸国や最近の米国における喘息治療では周知の事実である。
 本邦でのさらなる吸入ステロイド薬の普及に本書の果たす役割は大きい。実地医家そして喘息を これから治療していこうとする若手医師に本書を薦めたい。
(B5・頁152 定価4,223円(税込)医学書院刊)


医療現場の技師教育に精通した内容

臨床検査技術学15 情報科学概論・医用工学概論 菅野剛史,松田信義 編集

《書 評》石山陽事(虎の門病院・臨床生理検査部)

 臨床検査技師を目指す学生に最も苦手な教科を聞くと情報科学や医用工学をあげる。その理由の 1つに従来の教科書が医用工学でありながら,あまり医療現場を知らない工学者が自分の専門領域ではあ たり前と思っていることを省いた解説や,学生は現在何をどこまで知っていれば良いかを明確にしないま ま執筆されているためである。本書は長年,医学・工学の境界領域で仕事をし,また医療現場の技師教育 にも精通している著者によって書かれた教科書であり,まさに従来の教科書の欠点を十分に補った上で, なおかつ痒いところに手がとどく内容が網羅されている教科書である。

情報科学に平易な解説を施す

 前半の情報科学概論(松田信義著)は第1~4章が基礎編であり,まず第1章ではサイコロ振りやマー ジャンで勝つ確率などを引用し,情報量(ビット)等を説明し,第2章では自動分析装置や病院情報シス テム等を例にあげながらコンピュータの仕組みから論理演算やデータベースの構造などが平易に解説され ている。第3章ではいろいろなデータ通信の方法,A/D変換からデジタル通信,あるいは最近の標準化が 進んでいるネットワークプロトコールに至る内容まで言及している。第4章では情報処理システムとして, オン・オフライン処理の解説から分散処理の形態,パソコンを使用したマルチメディアの構成例などが盛 り込まれている。そして第5,6章の応用編では主に臨床検査システム構成と集中処理,分散処理システム 等を解説し,さらに病院情報システムの基本形を例にLANシステムの概念等が盛り込まれている。最後に CPUの性能,メモリ,伝送速度を表す略号,単位等が平易に解説されている。
 後半の医用工学概論(田頭功,清水芳雄共著)は,第1章で主に医用工学をとりまく種々の理工 学分野について簡単に解説し,第2章からオームの法則に始まり,電子回路の基礎,あるいはオペアンプ を用いた種々の回路の説明が医療機器を例に説明されている。また医用テレメータを例に変調・復調回路 も詳しく図解されている。さらにこの章ではフリップフロップ回路や2進カウンタ等について心電図情報 処理を例に簡明に解説されている。第3章では各種の医用機器を例に電極や種々の医用センサおよび化学 センサについて解説し,特に電極については分極,不分極について実際に生じる問題を例に詳しく説明し ている。さらに本章では種々生理検査機器の原理と構造とサーモグラフィ,X線CT,MRI,超音波画像等 の画像診断装置についても,その特徴等が解説されている。
 第4章では医用機器,設備の安全対策を中心に,生体の電気的安全性や電撃およびJISによる安全 基準から見た機器の分類と構成,さらに病院設備基準などが分かりやすく解説されている。そして最後の 5章では基礎的な医用電子計測技術の実習書となっており,ダイオードのV-I特性やオペアンプの基本回 路の特性など8項目の実験テーマを選んでおり,その項目ごとに課題が与えられている。

従来のスタイルにとらわれない

 全体を通して表や図にアクセントをつける等の工夫がされており,分かりやすく,また文章中のキー ワードとは別に重要語をゴシックとしたり,文章の行間もかなり余裕があるため,読みやすい印刷となっ ている。さらに各章の終わりに理解度の点検のために,実際に病院で使用されている検査機器やシステム を例に問題が作られているなど,従来の教科書のスタイルにとらわれない新たな臨床検査技師向けの教科 書であり,若い医師や他のコメディカルスタッフにも役立つ良書である。
(B5・頁176 定価4,120円(税込)医学書院刊)