医学界新聞

第30回「糖尿病学の進歩」開催

シンポジウム「21世紀へ向けての糖尿病の予防対策」


 糖尿病の基礎的・臨床的研究が年々急速な進歩を遂げている中,日本糖尿病学会主催の第30回 「糖尿病学の進歩」(世話人=国立京都病院WHO糖尿病協力センター長 赤澤好温氏)が,さる2月16― 17日,京都市の国立京都国際会館にて開催された。会場では2日間にわたり特別講演5題,シンポジウム10 題,レクチャー27題が行なわれた。
 このうちシンポジウム1「21世紀へ向けての糖尿病の予防対策」(司会=自治医大葛谷健氏,兵 庫県立成人病センター 馬場茂明氏)では,糖尿病人口の増大と重症化への対応の手がかりとして,予防 という観点から現況と展望が述べられた。以下にその概要を紹介する。

糖尿病発症予防への戦略

 はじめに葛谷英嗣氏(国立京都病院)が,NIDDM(インスリン非依存型糖尿病)の予防について発 表。まず発症に関与する遺伝的素因と環境因子に言及し,特に食事や運動の変化,肥満が患者増加の背景 と考えられると述べた。さらに,NIDDMの自然歴に関与している因子を除去すれば,進行を可逆的なも のにできるのではないかと指摘。NIDDMの前段階であるIGT(耐糖能異常)にある者(特にインスリン抵 抗性や高血糖,家族歴を有する者)を対象にした予防が効率的との考えを示し,その方法として,インス リン抵抗性の原因となる因子の除去と血糖値の正常化による膵β細胞機能の促進を提示した。具体的には (1)ライフスタイルの変更,(2)薬物による介入(SU剤,ビグアナイド,αグルゴシダーゼ阻害剤,インス リン感受性亢進剤)をあげた。
 若年者に多く発症し,血糖コントロールの困難なIDDM(インスリン依存型糖尿病)の予防に関 しては,花房俊昭氏(阪大)が登壇し,成因の解明と発症予知,また薬剤による予防と早期治療について 考察した。IDDMの多くは,遺伝的素因に環境因子が関与し,自己免疫反応による膵β細胞の破壊からイ ンスリン分泌が低下して起こると考えられ,膵頭細胞に対する自己抗体が発症マーカーとなる可能性が検 討されている。花房氏は主な自己抗体である膵頭抗体,抗グルタミン酸デカルボシキラーゼ抗体,抗イン スリン抗体について,マーカーとしての有効性を示唆し,今後は家族歴のない患者の発症予測が課題であ るとした。次いで発症予防法のうち現在注目されているものとして,ニコチン酸アミド(NA),インス リン,BCGの投与をあげ,欧米で実施中の大規模臨床試験に触れた他,NAを用いた早期治療の自験例で インスリン分泌能に一過性の改善が見られたことを報告した。

ますます求められる合併症予防策

 糖尿病性血管合併症の予防に関しては,柏木厚典氏(滋賀医大)が,まず細小血管症(網膜症,腎症, 神経障害)予防について,厳格な血糖コントロールによる予防は可能かとの観点から,各種介入研究での 強化インスリン療法の効果を紹介。さらに,網膜症に対するアルドース還元酵素阻害剤や抗血小板剤,腎 症に対する高血圧治療(ACE阻害剤)や遺伝因子解明などの有用性を示した。動脈硬化症の予防について は,ターゲットは高血糖,高脂血症,高血圧であるとして,血漿酸化LDLの測定法確立などの必要性を指 摘。また血糖コントロール,血中脂肪抑制,抗酸化剤治療による予防効果を示した介入研究のデータを紹 介した。この他柏木氏は合併症の予防戦略として,病診連携,合併症治療センター,糖尿病医療チームの 重要性も強調した。
 最後に医療経済の面からは,大石まり子氏(国立京都病院糖尿病センター)が,まず糖尿病医療 費の伸び率の高さを図示。合併症の発症によりさらに医療費が増大することから,経済的に見ても合併症 の予防は重要であると述べた。また教育・治療の費用効果の分析等のデータを紹介し,末期合併症の治療 にかかる費用を初期治療に用いることで,医療費のみならず間接費用も削減できることを具体的に示した。