医学界新聞

院内感染を幅広い視点から展望

第11回日本環境感染学会開催される


 第11回日本環境感染学会が,2月16―17日の両日,斎藤厚会長(琉球大教授)のもと,東京・芝 の東京プリンスホテルで開催された。
 今回の学会では,87題の一般演題の他,吉澤晋氏(東京理科大教授)が「病院構造と院内感染」 をテーマに特別講演を,J.E. マックガバン氏(エモリー大教授)が「多剤耐性菌:院内感染対策に対する 脅威」と題して招待講演を行なったのをはじめ,「院内感染対策の実際-院内感染対策マニュアルの評価」 や「レジャーと感染」をテーマにしたシンポジウムも行なわれた。
 エモリー大学病院で院内感染対策委員長を務めているマックガバン氏は,「院内感染の発生は, 国,地域,施設によって異なっており,それぞれの病院が自分のところに合った独自の院内感染対策マニュ アルを作る必要がある」とした上で,アメリカにおける院内感染対策の現状を紹介。また多剤耐性菌によ る院内感染に対しては,抗生物質の使用を個々の患者のケアの質が低下しないよう配慮しながら減少させ ていくこと,人から人への感染対策が重要であるため最も基本的な手洗い,うがい,マスクや手袋等バリ ヤーの使用などを徹底させること,そのためには医師・看護婦はもちろん病院管理者も含めたすべての医 療スタッフが協力する必要があることを強調した。

院内感染対策マニュアルをめぐり論議

 社会的問題にも発展したMRSAによる院内感染は,各病院での院内感染対策委員会の設置や院内感染 対策マニュアルの作成,それによる対策の実施を促し,一応の解決をみるまでになった。そこでシンポジ ウム「院内感染対策の実際-院内感染対策マニュアルの評価」(司会=慈恵医大助教授 柴孝也氏,九大 病院看護部長 田中洋子氏)では,医師,看護婦,薬剤師,管理者の立場から,院内感染対策マニュアル が生かされているかどうかが評価された。
 医師の立場から発言した吉川晃司氏(横浜市民病院)は,MRSA感染症予防対策マニュアルと血 液汚染事故対策マニュアルがどのように実施されているか,同病院の医師・看護婦へのアンケート調査を もとに問題点をあげて報告した。そして院内感染対策を推進していくためには,(1)医師にサーベイランス の必要性・重要性を説明し定期的に種々の情報を提示することにより,院内感染についての啓発をはかる, (2)患者の状況を把握したマニュアルを作る,(3)院内感染対策委員会やインフェクション・コントロール・ ドクターが問題点を定期的に洗い出し対策を立ててマニュアルを見直していくことが重要だと指摘した。
 看護婦の立場から発言した監物ヒロ子氏(神奈川県衛生看護専門学校附属病院)は,院内感染対 策マニュアル活用のための条件として,(1)現場に則した内容で,誰が見てもわかりやすく見やすく使いや すいものにする,(2)職員への感染防止に対する教育とマニュアルの活用方法の指導,(3)適当な時期をお いたマニュアルの書き換え,(4)院内感染対策委員会による定期的な院内感染サーベイランスの実施の4点 をあげた。
 また同じく看護婦の村田千代氏(岩手医大病院)は,自院の院内感染対策委員会が作った「院内 感染防止のためのマニュアル」の活用状況を報告。医療従事者が対策の基本的な事項について無関心とい う傾向が見られることから,基本を重視した現場教育が必要であると強調した。
 薬剤部の立場から発言した村山貴子氏(新潟県立十日町病院)は,MRSA感染症治療の実態,消 毒薬使用状況についてのアンケート結果を紹介した。その中で,現在最も重視している院内感染はMRSA であるが,将来的にはウイルス感染症が重要であるとの結果が出たと述べた。また抗生剤の使用状況は, 注射用抗生物質ではAG系が減少しカルバペネム系が増加しており,経口用坑菌剤はPC系が減少しML系 が増加していることを明らかにした。また抗生物質は入院患者の約2割,外来患者の1割に使用されている ことが推計され,全体の使用量は抗生剤,消毒剤ともに斬減傾向にあるとも述べた。

院内感染と医療訴訟

 管理者の立場から発言した石引久弥氏(国立埼玉病院)は,院内感染対策の経費,院内感染と医療訴 訟などについて述べた。石引氏は,現在の診療報酬制度には,感染症対策に欠くことのできない日常診療 の多くが認められていないところに問題があると指摘。また今日まで院内感染に関する訴訟は6件起きて おり,医療側の敗訴になったケースの争点として,病院側の(1)院内感染を防止すべき義務,(2)患者への 説明義務,(3)感染症の早期発見と診断の適切な対応が行なわれていたかどうかが問題になったと解説した。 またマニュアル自体には感染症を抑制する効果はなく,いかにバランスのとれた対策を実施できるかがポ イントであると強調した。
 この他特別発言を行なったアメリカのインフェクション・コントロール・ナースであるG. P. ピ グリース氏は,感染症の発生頻度は病院の規模によって違い,500床以上の大病院に頻度が高いと述べた。 また患者から患者への感染が多いが,中でも長期入院患者,抗生物質使用患者,熱傷センターの患者に頻 度が高いこと,院内感染対策には迅速性が必要で,MRSA発生が20例以下の場合には100%がコントロー ルできているが,20-39例になると71%,40例以上になるとコントロールできる率は10%となってしまう ことを報告した。