HOME雑 誌精神医学2011年7月号(53巻7号) エディトリアル
「精神医学」 論文公募のお知らせ
テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」
「災害精神医学の確固たる発展を目指して」

 この度の東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに,被災された皆様にこころからのお見舞いを申し上げます。また,困難な状況の中で被災者のメンタルケアにあたっておられる方々にこころからの敬意を表するとともに,くれぐれもご自愛くださいますようお祈り申し上げます。

 「精神医学」編集委員会は,被災者のメンタルケアに少しでもお役に立てるように,「精神医学」の編集を通じて災害精神医学の確固たる発展に寄与していきたいと願っております。

 災害精神医学は災害の影響を受けた人びとを精神保健福祉的に支援するための手法・手段に対する学問的な基盤をなすものでありますが,まだ科学的根拠が不足している学問領域であります。一時期,災害時の介入法としてその有効性が評価されていたCritical Incident Stress Debriefing(CISD),集団による辛さの語り合いの技法は,国際的にはかつてのような評価ではなくなり,とくにわが国ではエビデンスが十分吟味されないままに試みられてきた嫌いがないともいえません。またマスコミがそれを後押ししていることも今回も垣間見られたところであります。このようにCISD一つとってもわが国では,今後のエビデンスの蓄積が求められている段階であります。

 また,災害との関係ではPTSDだけが取り上げられがちですが,災害の緊急時においては子どもや老人,各種精神疾患患者が災害弱者となりやすいことからこころのケアが必須となり,精神疾患の発症予防,増悪防止の精神医療・保健福祉活動が求められます。したがって,医師,保健師,精神保健福祉士などの多職種による科学的なエビデンスに基づく災害時のこころのケアの実践が必須となります。

 当委員会はこの大災害での経験を弊誌にお寄せいただき,災害精神医学のエビデンスを構築していくことに加えて,この大震災で親しい人々を失い,生活基盤を失った方々に対し,どのようにして希望を持っていただけるようになるのかを見据えた新たな復興モデルを作っていくための糸口を情報発信できるようになりたいと願っております。これを可能にするのは「精神医学」を支えてくださっておられる投稿者と読者の先生方のいっそうのご支援,ご協力であると確信致しております。何卒,よろしくお願い申し上げます。


2011年 6月17日 「精神医学」 編集委員会