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『臨床整形外科』
連載|「勘違い」から始める臨床研究―研究の旅で遭難しないために Quiz

 この連載では,臨床研究に関するよくみられる「勘違い」を,具体例とともにお示しします.それによって,読者の皆様に,「研究デザイン」の重要性と本質をご理解いただくことを狙っています.(著者 福原俊一)

 このコンテンツでは,連載各回の復習Quizの問題と答えをご紹介します.これから読んでみようという方や,臨床研究を始めようという方にも挑戦していただいて,興味や理解を深めるきっかけとなれば幸いです.


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14. 以下のPECOで研究を実施する計画です.
 交絡因子の影響を少なくするためには,どうすればよいでしょうか?
 研究デザインはコホート研究です.
P 骨折で入院した患者
E 早期にリハビリテーションを開始した場合
C 早期にリハビリテーションを開始しなかった場合
O 退院時のADL
[答え] ① 早期にリハビリテーションを開始することによる効果を調べたいリサーチ・クエスチョンですが,早期に開始した患者とそうでない患者には大きな違いがある可能性がありますね.例えば,骨折の部位によっても早期リハビリテーションが適応となる場合と,そうでない場合があるかもしれません.若者のスポーツによる骨折と,高齢者の転倒骨折を比べてしまっては,まさしくオレンジとリンゴの比較になってしまいます.年齢,骨折部位,受傷原因などで対象者を明確に定義し,似た者同士のEとCで比較ができるようにしましょう.
② Pの定義によって似た者同士で比較できるようにした後でも,EとCには,異なる特徴があるかもしれません.これらの特徴の違いが交絡因子となる可能性があります.もし,この特徴を測定し,統計解析で調整することができれば,比較の質は高まります.
2017年5月号 掲載
13.(1) P値の大きさを左右する2大要素は?(複数回答可)
1.差の大きさ
2.サンプルサイズ
3.統計的パワー
4.関連性の高さ
5.効果の大きさ
6.βエラー
7.真の効果を推定する精度
[答え] 1・4・5・7

13.(2) 治療の効果の大きさを評価する適切な指標は?(複数回答可)
1.治療後のアウトカム指標の値そのもの
2.治療前後のアウトカム指標の変化量あるいは改善割合
3.変化量の2群間の差
4.改善割合の2群間の比
5.治療前後のアウトカム指標の値の効果量
[答え] 3・4・5
12. リハビリが術後の運動機能(歩行速度)に与える効果を調べる際に,
以下の第3の因子はどのような影響を持つでしょうか?
① 手術の術式
② 認知機能
[答え]
① 手術の術式は,術後の歩行速度に影響を与える可能性があります.術式によってリハビリをするかどうかは不明なので,予後因子としました.もし,術式によって医療者がリハビリを勧める場合,交絡因子となりえます.このように既存の情報で交絡因子と予後因子を区別することが困難な場合もありますので,その際は交絡因子候補としてデータを測定し,交絡因子として解析で調整する場合,調整しない場合の両者を比べることもあります.
② 認知機能は運動機能にも影響し,リハビリ参加にも影響することが想定されるので交絡因子となりえます.しかし,認知機能を測定することは困難で,すべてのリサーチ・クエスチョンで,必要なすべての交絡因子に関するデータを取得することができない場合もあります.その際は,未測定の交絡因子の影響の方向性と大きさを,今回説明した方法で見積もっておくことが重要です.
11. 比較の質を落とす3つの要素のうち,①~③はどの要素に該当するでしょうか?
① 運動教室の希望者において運動習慣を測定した.
② 糖尿病患者に外来で外食回数を聞き取り調査した.
③ 手術患者と保存治療の患者で1年後の機能を比較した.
[答え]
① 運動教室に参加を希望する人は,運動に関心が高い人に偏ってしまうことが想定されます.このように対象者の選択が特定の傾向を持った人に偏ってしまうことを「選択バイアス」と呼びます.
② 糖尿病患者は普段から食事制限を指導されているので,外来で食事量を聞かれると少なめに答えてしまうことが想定されます.このように測定の条件(測定のデザイン)によって測定結果が特定の方向に偏ってしまうことを「情報バイアス」と呼びます.
③ 手術患者と保存治療患者では,背景が異なっている可能性があります.両群の背景因子の偏りが起こす比較のゆがみを「交絡」と呼びます.
今回のクイズで紹介した内容は次回以降で詳しく解説していきます.
10. 巷で話題のやせるサプリを体験した10名の方が,
1カ月後に体重が7.5kg減少したと宣伝されていました.
この宣伝をみて,このサプリでやせると結論することはできるでしょうか?
できないとしたらどのような理由でしょうか? 考えてみてください.
[答え] サプリでやせたとは言えない.

理由
1. サプリ以外の介入が加わった可能性がある.食事や運動の変化など.
2. サプリのモニターとして観察されたせいで,やせた可能性がある.
3. 太っている人ばかりがサプリを使用し始めた場合,
再測定の体重は減少する可能性が高い(平均への回帰).

9. 臨床研究で「QOLをアウトカムとする」場合,どのようなことに注意する必要が
ありますか.正しいものをすべて選んでください.
① QOL尺度の利用法(測定の手順)
② QOL尺度の選択(どの尺度を使用するか)
③ 結果の解釈(QOLスコアの差の意義)
④ QOL尺度の回答割合
[答え] ① ~ ④ すべて.
8. 子宮がんの発症を予防するワクチンの効果を検証する研究において,
対象(P)にしてはいけない人を3つ挙げてください.
[答え] アットリスクの2要件(イベントを発症する可能性と,まだイベントを発症していないこと)に合致しないことに留意する.
男性(子宮を持っていない=アウトカムを発症し得ない),子宮を摘出した患者(同様),子宮がんをすでに発症した患者.
7.(1) 以下のPECOは何が間違っているでしょうか?
P:高齢の入院患者 E:入院中に転倒あり
C:入院中に転倒なし O:転倒による骨折あり
[答え] アウトカムは転倒による骨折なので,Cの転倒しない患者ではアウトカムを起こし得ません.ここで起こった勘違いは,EやCの定義とOの定義が独立していないという点です.PECOの各要素は互いに独立していなければいけません.

7.(2) 以下のPECOは何が間違っているでしょうか?
P:整形外科受診患者 E:腰痛を訴える患者
C:膝痛を訴える患者 O:メンタルヘルス
[答え] この場合の間違いはE+C=Pにならない場合があるということです.腰痛と膝痛の両方を持っている患者や,どちらも持っていない患者がPに存在する可能性があります.
6. 以下のPECOをFIRM2ENESSチェックしてください.
クリニカル・クエスチョン
「高齢者は,外出が多いと骨が丈夫になり骨折が減るのでは?」
P:整形外科外来患者,65歳以上
E:外出頻度が多い
C:外出頻度が少ない
O:新規骨代謝マーカー
[答え] これは,65歳以上の整形外科外来患者を対象に,外出頻度と骨代謝マーカーの関連を調べるPECOですね.このPECOを考えた人は,本当は外出の頻度によって骨折の発生割合が異なるかどうかを知りたかったのですが,骨折を起こす頻度が多くないために,新規骨代謝マーカーをアウトカムに採用したのかもしれません.

このように真のアウトカム(ここでは骨折)を調べたいのだけど,その頻度が少ないために研究が大規模になりすぎてしまう場合に,その手前のアウトカム(ここでは新規骨代謝マーカー)を利用することは多くあります.しかし,それで本当に知りたかったRQを解決できるようなPECOになっているかを検討する必要がありますね.新規骨代謝マーカーが患者さんにとって切実なアウトカムであるのかという議論も必要です.骨折を来しやすいような集団を対象者に選べば,少ない人数でも検討可能な場合があります.また,新規骨代謝マーカーをアウトカムにした研究がないからという理由(新規性)だけで,この研究の意義が高くなる訳ではありません.新規性よりもRQ自体の切実さを考慮した臨床研究を行っていただきたいと思います.
5.(1) 発生率と発生割合はどのように使い分ければよいでしょうか?
[答え] 発生率は発生のスピードという時間の概念があり,発生割合にはスピードの概念がないという説明を本文中でも行いました.

発生率を計算するには,誰がいつアウトカムを発生したかというデータが必要です.発生のスピードが重要なリサーチクエスチョンでは発生率を利用すべきですし,アウトカム発生時点を定義するのが難しい場合,臨床的に発生のスピードよりも発生したかどうかが重要な場合は発生割合を使います.

5.(2) 対象者のアウトカム発生頻度が異なると,
リスク比・リスク差にどのような影響を与えますか?
[答え] アウトカムの発生頻度が効果の指標に与える影響を考えてみましょう.

 1. アウトカムの発生頻度が低い場合
  要因のグループにおけるリスク(発生割合)60%
  比較対照のグループにおけるリスク40%
  この場合,リスク比は1.5,リスク差は20%ですね.

 2. アウトカムの発生頻度が高い場合
  要因のグループにおけるリスク(発生割合)15%
  比較対照のグループにおけるリスク10%
  この場合,リスク比は1.5,リスク差は5%ですね.

1.と 2.を比べてください.どちらもリスク比は1.5ですが,リスク差は大きく異なります.このように,もともとのアウトカムの発生頻度によってリスク差は大きな影響を受けやすいことを覚えておいてください.
4. 今月の抄録に関するクイズです
   今月の抄録    大風呂医師が学会で発表予定の抄録をみてみましょう.
背景・目的 運動不足が腰痛の原因となる可能性が指摘されている.本研究では,運動習慣の有無と腰痛発生の関連を検討する.
方 法 内科外来に通院中の高血圧患者300名を本研究の対象とした.運動習慣の有無で2群に分類し,1年間での腰痛出現割合を比較した.多変量解析を行い,調整オッズ比を求めた.
結 果 運動習慣のない群と比較した場合,運動習慣がある群での腰痛出現の調整オッズ比は0.6(P値<0.001)であった.
結 論 運動習慣は将来の腰痛出現を減少させる.
4.(1) 大風呂医師のリサーチクエスチョン「運動習慣と腰痛発生の関連」において,
多変量解析で調整すべき交絡因子はどのようなものが想定されますか?
[答え] まずは,アウトカムである腰痛発生のリスク因子を考えて,その中から要因と比較対照で分布が異なる交絡因子を見つけていきましょう.すでに,年齢と腰痛に既往を挙げましたが,職種はいかがでしょうか? 介護職などは腰痛発生が多いかもしれません.さらに,介護職には運動習慣を持っている人が多い可能性があります.その場合,職種は交絡因子となりますね.
以下のような交絡因子を考えてみましたが,皆さんはいかがでしょうか?
 年齢,腰痛既往,職種,運動機能,メンタルヘルス,ひざ痛,BMI

4.(2) 大風呂医師のリサーチクエスチョンを実施する際,腰痛の発生を外来で
主治医が聞き取り調査することとしました.これによってどのような問題が
起こり得る? 問題が起こった場合,多変量解析で対処可能でしょうか?
[答え] アウトカムの測定における情報バイアスに注意が必要です.内科の主治医が腰痛の有無を聞いた場合,患者は遠慮して腰痛を言わない可能性があります.このように測定されたデータ自体が誤っているバイアスの場合,多変量解析では何も対処できません.
3. 今月の抄録に関するクイズです
   今月の抄録    大風呂医師が抄読会で担当した抄録をみてみましょう.
背景・目的 腰痛には心理的要因が影響していることが知られている.本研究では,認知行動療法が腰痛改善に与える効果を検討する.
方 法 参加施設(60施設)の整形外科外来に腰痛で受診した患者から同意の得られた4,500名を本研究の対象とした.ランダム割付を行い,通常治療に加えて認知行動療法を行う介入群と通常治療のみの比較対象群に分類した.研究開始後3ヵ月,6ヵ月,12ヵ月時点での腰痛による生活障害度を両群で比較した.
結 果 12ヵ月後の腰痛による生活障害度は,介入群で比較対照群と比べて有意に改善を認めた(P値<0.001).12ヵ月追跡できた患者は,全体で60%であった.
結 論 腰痛に対する認知行動療法は,腰痛による生活障害度を改善させる効果がある.
3.(1) 認知行動療法を受ける介入群か通常治療の比較対照群のどちらで
あるかが,研究対象者にわかってしまう場合,アウトカムである腰痛による
生活障害度の測定にはどのような影響が起こり得ますか?
[答え] 対象者に自分が介入群であることがわかってしまうと,アウトカムである腰痛による生活障害度を低く報告してしまう可能性があります.これは,測定されたデータが誤ってしまう情報バイアスと呼ばれます.この情報バイアスによって認知行動療法による生活障害度の改善が過大評価される可能性があります.

3.(2) 腰痛の改善が大きい対象者に偏って追跡ができなくなる場合,
結果にどのような影響が起こり得ますか?
[答え] この例では,アウトカムを測定できるのは腰痛の改善が少なかった対象者に偏ってしまいます.これは,アウトカムに関連して偏って起こる脱落で,ランダムでない脱落によるバイアスと呼びます.このような例では治療効果が過少評価される方向に結果が歪められることが多くなります.
2.(1) 横断研究でも,ある程度因果関係を推論できることがあります.
どのような場合でしょうか?
[答え] 医学的に考えて要因⇒アウトカムの順番で起こることが明らかであり,逆転が考えにくい場合です.例えば,血液型,遺伝子のような生後変化しない特性を要因とし,疾病の発症などをアウトカムとした研究の場合が該当し,縦断研究と同様の結果解釈を得ることができます.

2.(2) 通常のコホート研究に比較して,
「過去起点」コホート研究の短所は何でしょうか?
[答え] 測定されていない重要な交絡因子があれば,「過去起点」コホート研究では結果が歪められてしまいます(未測定交絡).また,変数の定義や,測定法などにばらつきがある可能性があります.加えて,対象者の追跡が必要な研究の場合,脱落を予防できないという欠点があります.
1. P値を大きく,あるいは小さくするのは?

  ○……P値を大きくする   ×……P値を小さくする   △……どちらとも言えない
 (1)サンプルサイズが大きい. ⇒
 (2)データのばらつき(SD)が大きい. ⇒
 (3)推定の精度が高い. ⇒
 (4)治療効果が大きい. ⇒
 (5)要因とアウトカムの関連性(相関)が強い. ⇒
 (6)交絡やバイアスの影響が大きい. ⇒

関連リンク
[著者所属先]
 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 医療疫学分野  http://www.healthcare-epikyoto-u.jp
 福島県立医科大学 臨床研究イノベーションセンター  http://www.fuji-future.jp/

[著者主催のNPO]
 認定NPO法人 健康医療評価研究機構  https://www.i-hope.jp/

(2014.04.07作成 2016.10.03更新)