HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻5号(2007年5月号) > 今月の主題●座談会
今月の主題●座談会

外来で診るウイルス肝炎
効果的な病診連携のために

発言者●発言順

八橋 弘氏(国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
伊東和樹氏(肝臓病・子育てよろず相談 伊東クリニック)
柴田 実氏(柴田内科・消化器科クリニック)
石川哲也氏(愛知医科大学消化器内科=司会)


 ウイルス肝炎に基づく肝硬変・肝臓癌による死亡を減少させるためには,病院と診療所,専門医と一般医,入院治療と外来診療の連携が欠かせない。現在の医療環境では外来でどこまでウイルス肝炎を診られるのか? そのツールとしてのガイドラインの問題点は? 効果的な病診連携には何が必要なのか? 各現場の第一線に立つ臨床医に語っていただく。


石川 お忙しいなかご出席いただきありがとうございます。本日は,ウイルス肝炎の実地診療というテーマで,「外来でどこまで診られるか」を主な議題に座談会を行いたいと思います。

 現在,肝臓癌では年間3万人以上の患者さんが亡くなり,ウイルスキャリアは,B型,C型ともに150~200万人ぐらいいるという状況です。肝癌死を減らすには,そうした方たちから発癌リスクの高い患者さんを拾い挙げて,適切な治療をしていくことが求められます。これには,肝臓専門医だけでなく,一般の内科の先生方にもご協力いただかなくてはいけません。そこで,外来でどこまで診ていくか,どこまで診なければいけないかということは,非常に大きな問題になるわけです。

■外来でどこまで診られるか?

1. 外来でどこまでできるか-インターフェロンの導入を含めて

石川 まず,外来でどこまで診られるかということについて,ご意見を伺いたいと思います。

八橋 ウイルス肝炎だけだったら,全部,外来です。入院は肝生検入院ぐらいしかないと思います。

伊東 肝生検も要らないとなると,入院は必要ないので,肝炎の診断・治療は,開業医の仕事にフィットしていますよね。

石川 うちでは,高齢者などは安心のために,インターフェロンの導入時には入院してもらっていますが,実際には,副作用もかなり軽減されていますし…。

伊東 何日ぐらいの入院ですか。

石川 10日間ぐらいです。

八橋 当院ではインターフェロン導入時の入院は1~2週間です。

伊東 肝生検がなかったら?

八橋 肝生検は,肝生検だけで3日間の入院です。インターフェロンは,基本的には入院させていますが,最近は,要らないなあと思っています。入院費用も高いですから,インターフェロン導入も徐々に外来に向かっていくかと思っています。

柴田 前ほど,発熱で苦しまなくなってきていますので,私もいま,10人ぐらいインターフェロン治療を行っていますが,皆,外来でスタートしています。

伊東 入院のメリットは,夜まで含めて自由な時間があるから,ゆっくり患者さんに説明して,安心してもらったり,納得してもらったりするところにあるでしょうね。忙しい病院の外来だけでというのと比べると,いいところもあるのかなと…。

 でも,私のところでは,インターフェロンをした人がそろそろ100人近くなると思いますが,ちょっとご高齢の方などで,不安だから入院して始めたいという方は2人だけでした。

石川 ウイルス肝炎は,ほとんど外来で管理が可能になってきていますね。外来診療の重要性は非常に大きくなっているといえます。インターフェロン治療にしても,ずっと病院でやれる方ばかりではありませんから,病院と開業医の先生方のクリニックとで,協力して診ていかなくてはなりません。そのほかにも,治療が必要な患者さんの拾い上げや,治療方針の決定,実際の治療・管理に至るまで,病院とクリニックとの間の,有機的な病診連携が求められていると思います。ただし,この連携を進めていくうえで,現状ではいろいろな問題があることも事実と思います。

2. 肝疾患診療における専門医と一般内科医の差

石川 さしあたっての問題は,肝臓専門医,つまり病院勤務をしていて,ある程度肝疾患を診ることのできる医師と,一般内科医,つまり開業をしているかかりつけ医との間に,慢性肝炎,ウイルス肝炎の病態や治療についての理解度にかなりの差があることだと思います。伊東先生は,開業されていて,一般の開業医の先生方ともお付き合いがあると思いますが,最も大きな差がみられる点はどのあたりでしょうか。

伊東 一般医の先生方は,コストのこともあってそうそういろいろな検査もできないので,GOT/GPT(AST/ALT)をみて,「ちょっとよくなったね」「ちょっと悪いね」と言いながら1年が過ぎ,5年,10年と過ぎてしまうということが,まだ多いのではないでしょうか。

 私は,病診連携のネットワークづくりを,病院時代から15年くらいしてきて,「B型やC型の人たちは,肝癌のリスクを背負った人なのです」ということや,「GOT/GPTだけですませないでください」というキャンペーンをしてきました。それに応えてくれた先生も少なくありませんが,地域全体でみると,20年前とあまり変わっていないところも多いかと思います。

石川 GOT/GPTを下げることに主眼を置いて治療をしており,その方にどのくらいの発癌リスクがあるかということは,あまり考えておられないのが現状ですね。

伊東 そうですね。実際に何年分かの資料を拝見すると,GOT/GPTは上がったり下がったりしているのですが,よく見ると血小板が前回までは20万を超えていたのに,この半年ほどは12万になっているとか,15~16万あったのが10万を切っているとかいう人が珍しくないです。特にC型の場合には,経過年数にほぼ比例して病期が進んでいくところがありますので,自然経過を把握したうえで,患者さんがどの辺りに位置しているか,まだのんびりかまえていてもいいとか,もうあとがない,肝癌検診をしなければいけないなどの判断が難しいのではないでしょうか。

石川 柴田先生はいかがですか。

柴田 差はかなり大きいと思います。私はNTT東日本関東病院の肝臓専門外来も行っていて,開業の先生からの紹介患者さんも診ています。例えばB型肝炎でトランスアミナーゼが高くて強ミノ(強力ネオミノファーゲンシー®)を打っているけれども,それでいいかどうか相談したいという患者さんを紹介されました。B型肝炎と診断がついていますが,調べてみるとセロコンバーション(seroconversion)していて,ウイルスはPCR法では検出できない状態,つまり,B型肝炎は悪さをしておらず,結局,脂肪肝が原因だったのですが,開業の先生はこれをB型肝炎によるものと判断されて,延々と強ミノを打っている,というようなことを経験しました。

石川 逆に,セロコンバーションしているからいいと思っていると,ウイルスがある程度動いていて,そのうちに癌が出てくるというようなケースもありますね。そこまで理解している先生は,一般の内科医の先生のなかにあまり多くはないということですね。

 八橋先生,いかがですか。

八橋 伊東先生や柴田先生のように,肝臓を専門にされていて開業された先生と,一般内科医として肝臓の患者さんを診られている方と,開業医の先生には2パターンあります。どこが違うかというと,ひとつはエコーを自分でできるか,もうひとつはウイルスマーカーを読めるか,だと思います。

 いま使用されているウイルスマーカーは,複雑なうえに数年ごとに変わりますので,きちんと勉強されている肝臓専門の開業医の先生に比べたら,一般内科の先生には,なかなかわかりにくいところがあると思います。

石川 いまだに,DNAポリメラーゼを測られている方も…。

八橋 B型肝炎マーカーとして,HBV‐DNAではなく,DNAポリメラーゼが今も日本全体の50%以上で測定されているのが現状です。

 あと,慢性肝炎は,経過の長い疾患ですので,自然経過を踏まえたうえで,治療方針を決めることができるかどうかという点が,専門の方とそうでない方では明らかに違うと思います。

石川 やはり,初期の段階である程度の治療方針を決めることは,一般内科医の先生には,少し難しいということですね。

伊東 少し前に,佐田通夫先生(久留米大学第2内科)がまとめられた調査では,肝臓をたくさん診ている医師のほうがインターフェロンを熱心に勧める,という結果が出ていました。私の実感からも,肝癌の患者さんを看取った数の分だけ,肝炎の治療に熱心になるのではないでしょうか。

 肝癌というのは,非常に厳しい世界で,もちろん5年生存,10年生存も増えていますが,やはり亡くなっていく方は多いわけです。私のところでも,5年で150人ぐらいが亡くなっています。そうしますと,一見元気に見える患者さんでも,5年後,10年後に肝臓がどうなって,その方がどういう運命をたどっていくのか,ある程度イメージされるわけです。「ここで放っておいてはいけない」といって,どれだけ説得し,説明し,共感をもって治療の場に上がってもらえるか。それによって,非常に差がつくのではないでしょうか。

石川 どういう経過をたどり,どういうように癌が出てくるかを知らないと,なかなかそういう患者さんを診きれないということになりますね。

3. 専門医と一般医の差をいかに埋めていくか

石川 ウイルス肝炎の患者さんが,必ず全員,専門医のところへ来られるわけではなく,最初に一般内科にかかられる方も多い。すると,その方々は,治療のチャンスを逃してしまう可能性もあるわけで,専門医と一般内科医のギャップを埋めることが必要となります。

 その方策として,何か具体的に取り組まれていることや,ご提案などはありますか。医師会での勉強会などもされていると思いますが。

八橋 一般の先生に,できるだけ肝臓のことをわかっていただくことも1つの解決方法なのですが,限界もあると思います。一般内科医の守備範囲外は病院に任せていただく。肝臓専門で開業されている先生の場合は,エコーも含めてかなりのところを担っていただき,病院の受け持つ部分は小さくしていいと思います。自分がやれる範囲はどこまでなのかを明確に意識したうえで,お互いの役割を作っていくほうがいいのではないかと思います。

伊東 病診/診診連携の患者さんの場合,エコーをできる先生には,エコーまでお願いしていますが,エコーができない施設では,毎月の検査は開業医の先生にやっていただき,われわれのところに4カ月に一回くらいエコーに来ていただいています。

石川 病診連携については,またあとで話題にしたいと思いますが,エコーを定期的にやることなどを含めて,一般内科の先生方に啓発していかなければいけないですね。具体的な取り組みは?

伊東 肝臓学会は,患者さんや家族,医師を対象に肝癌の撲滅キャンペーンをしており,医師会でもさまざまな生涯教育をしています。

 医師会が主催するものには必ず参加するという先生もいらっしゃいますが,そういう方は全体の20~30%ではないでしょうか。特に,一般内科,かかりつけ医は内科の全領域プラス外科,小児科,皮膚科などをカバーするので,あれもこれも全部勉強してレベルアップしてくださいというのは難しいところがあるでしょう。

 肝臓に興味をもっている,あるいは病院にいたときに連携で患者さんをお世話していた開業医の先生たちは,かなり積極的なので,そういう先生方を集めて病診連携の勉強会をやってきています。ただ,そうなるとますます差が開いていってしまって,かなりのことをしてくれる先生がいらっしゃる一方で,いまだにAFPを定性法で測っているとか,DNAポリメラーゼの話になってしまうこともあるわけです。

■病診連携

1. なぜが病診連携が必要なのか-一般内科医への啓発効果

伊東 ここで,病診連携の話をしてもよろしいですか。

石川 どうぞ,お願いします。

伊東 私が医師会などで地域の先生方にお話ししてきたのは,医師もリスクをヘッジしたほうがいいですよ,ということです。1人の患者さんを,自分だけで診ていると,特にC型肝炎,B型肝炎の人は診療サイドにもリスクがあり,実際に裁判になった事例もあります。患者さんの病期・病態により3カ月に一度,半年に一度,年に一度というように決めて,お医者さんの“掛け捨てがん保険”のつもりで病院の専門外来にまわしてくださいと言ってきました。

柴田 差を埋めるためには,一人ひとりが勉強するのがいちばんだと思いますが,開業医の先生は肝臓の勉強だけすればいいわけではないので,手がまわらないのも実情だと思います。やはり,一度は専門の先生に評価をしてもらって,例えばセログループ2でウイルスが少ない人などは,専門医が診れば,「放っておいちゃいけない。治る確率も高い」と,強くインターフェロンを勧められます。伊東先生がおっしゃったように何カ月に一度でなくとも,どこかで一回は評価をしてもらう必要があると思います。

伊東 初期評価をしたところで,次に専門医と会うのは3カ月後でいいとか,半年後がいいとかを決めて,またかかりつけの先生に返してあげるということでしょうね。

柴田 逆紹介ですね。一回は,拠点のところなり,専門の先生なりに評価してもらえば,9割治るからといってすぐにインターフェロンを勧められることもありますので,そういう説明を受けて,かかりつけの先生のところに戻ってきて治療を受けるというように。

伊東 勉強会も,講演会も,機会が多ければ多いほうがいいのですが,かかりつけ医の先生にとっては,自分が診てきた,あるいはいま診ているかけがえのない患者さんにかかわることが,いちばん興味がもてることです。講演会などで,一般論として「近頃のC型肝炎の治療は…」という話を聞くよりも,一人ひとりの患者さんを通しての連携・逆紹介のなかでの教育・啓発のほうが,地域の先生には骨身に沁みるというか,お医者さんの意識を変えやすいと思います。病院の先生方にとっては大変な負担ですが,逆紹介や連携には,余分に手をかけていただきたいと思います。

2. 病診連携の隙間を埋めるには患者サイドの協力も必要

石川 C型肝炎のスクリーニングでは,見つかったときに,「こういう検査をしてください」「一度専門病院に受診してください」と言っていると思いますが,まだ受診率はそれほど高くないですね。

八橋 高くないですね。

石川 その原因は,どこにあるのでしょう。

八橋 システムがまだ完成していないということもありますし,患者さんの意識の問題もありますね。受診を勧められても,自覚症状がないので放っておかれる方がかなりあるように思います。

伊東 ほとんどでしょう。

柴田 パンフレットみたいなものを作るといいかもしれませんね。

伊東 パンフレットもあるし,ビデオもありますが,なかなか身につまされないといいますか,自分自身の問題として考える気にはなれないのです。

 いまの公的な病院の外来は非常に厳しい状況です。人は少ないし,患者さんは多い。そして最大の問題は,すべてが医者任せにされてしまっていて,手間のかかる説明についても,医師以外にする人がいないのです。流行っている病院ですと,あまり外来に時間が割けないので,機械的に「これを読んでおいてくださいね」と言ったり,「ひと通りの検査をしましょう」というふうに“流されて”しまう。

 それでは,患者さんとしては全く納得がいかないわけです。そもそも,「症状もないのに,何のためにそんなことをしなければならないのか」がわからない。そこのところで情報提供の隙間を埋めるための何かが必要です。

石川 かかりつけ医が,その役割をある程度担っていく必要があるということになりますか?

伊東 ただ,かかりつけ医にそのレベルの説明ができるかというと,それもまた非常に難しいのです。病院には,医師,看護師,薬剤師,検査技師ほかの人たちがいるわけです。例えば,薬剤師が病棟のほかに,外来でも特殊な薬物療法の説明をしたり,パンフレットを作ったりすることもひとつの方法です。もうひとつの方法は,癌治療の世界にあるような体験者のボランティアです。「私もインターフェロンで苦労しました」という方たちを,なんとか組織して,ピア・カウンセリングをしてもらうことです。

石川 先生は,患者会を通じてそういう取り組みをされていますね。

伊東 ええ。患者会のネットワークは,啓発という意味では非常にすぐれています。医師や看護師が30分話をするよりも,待合室で,患者さん同士が10分ぐらいしゃべっているほうが,インターフェロンを受けようとの決断が早いケースもままありますね。

石川 医師側で埋められない部分は,患者さんサイドにも協力をお願いすることが,現実的な方法ということになりますね。

(つづきは本誌をご覧ください)


八橋 弘氏
1984年長崎大学卒。長崎大学第1内科研修後,1988年から現在まで長崎医療センターに勤務し,肝臓病,特にウイルス肝炎の臨床と研究に従事。2002年から臨床研究センター治療研究部長。2004年から長崎大学大学院医歯薬学総合研究科新興感染症病態制御学専攻肝臓病学講座教授併任。若手肝臓専門医育成を目指す。

伊東和樹氏
1977年信州大学卒。考えるところあって同大学臨床系大学院を2年で中退,天理病院で3年間の内科系後期レジデント。卒後6年目から20年間を静岡県立総合病院に勤務,肝癌の内科的治療を中心に診断から看取りまで携わる。2002年6月診療所を開設。ウイルス肝炎のIFN治療から終末期肝癌の在宅看取りまで,患者・家族の求めに応じて奮闘中。静岡肝友会(患者会)顧問。地域の医師と「肝疾患病診連携懇話会」の活動も。

柴田 実氏
1984年昭和大学卒。同大学で内科研修後,川崎中央病院(現・川崎社会保険病院)で消化器・肝疾患の診療業務に9年間従事(内科部長)。都立荏原病院,昭和大学消化器内科(講師),NTT東日本関東病院消化器内科(主任医長)を経て,2006年9月から都内にクリニックを開院。現在は消化器,肝疾患の診療を行う傍らNTT東日本関東病院非常勤嘱託,昭和大学兼任講師,慈恵医大肝移植外部委員を兼任。

石川哲也氏
1985年名古屋大学卒。1985年から1989年まで袋井市民病院で研修・内科勤務。1989年名古屋大学大学院医学研究科入学。在学中の1993年から1995年まで米国スクリプス研究所でB型肝炎の免疫病態に関する研究に携わる。1995年名古屋大学大学院医学研究科満了。1996年愛知医科大学第一内科助手,1998年同講師。2001年同大学消化器内科講師,2006年同助教授。専門はウイルス肝炎の免疫・病態・治療。