今月の主題●座談会


心臓突然死をどのようにして防ぐか

笠巻祐二氏 五十嵐正樹氏
松田直樹氏 池田隆徳氏〈司会〉


池田 本日は,「心臓突然死をどのようにして防ぐか」というテーマで,ディスカッションをしたいと思います。

 最近の循環器系学会の多くの企画セッションで取り上げられておりますように,心臓突然死は現代医学における最も重要なテーマの1つとなっています。心臓突然死は,心臓に何らかの器質的心疾患を有する患者で発現しやすいといわれておりますが,そうではない病態においても発現することが知られています。

 最初に,心臓突然死の原因となる不整脈とはどういうものか,というところから話を始めたいと思います。松田先生,これまでの印象あるいはデータから,どのような不整脈が最も多いとお考えでしょうか。

心臓突然死の原因となる不整脈

松田 突然死の直接の原因となる不整脈には,大きく分けて頻脈性不整脈と,徐脈性不整脈があります。頻脈性不整脈として,心室細動(ventricular fibrillation:VF),持続性心室頻拍(心室頻拍=ventricular tachycardia:VT)といった心室性不整脈があげられます。また,徐脈性不整脈では,完全房室ブロック,洞停止からの心室静止が,突然死の原因となります。

 それらのうち,どういうものが多いのかという実態は,なかなかわかりません。たまたまホルター心電図をつけているときに突然死する方が,きわめて稀にいます。その心電図を解析することによって,突然死の実態をある程度浮き彫りにすることができます。私たちは以前,偶然ホルター心電図をつけているときに突然死した方の心電図を,全国から70例ほど集めて解析したことがあります。それを見ますと,70%がVFあるいはVTで突然死しており,残りの30%が徐脈性不整脈で突然死をしていました。

 すなわち,70~80%はVT,VFによる突然死です。この割合は,米国でもほぼ同じです。米国のデータでは,若干心室性不整脈の割合が多いと思いますが,やはりVT,VFによる死亡が,突然死の主要な原因です。

池田 いま,VTとVFで心臓突然死が多いというお話でしたが,それ以外にトルサード・ド・ポアンッ(torsades de pointes)という不整脈が米国のデータでは挙げられています。これはどういう不整脈かご説明していただけますか。

松田 torsades de pointesというのは,多形性VTのなかの1つの形態です。QRSが基線を軸に,上下にねじれるような形をとることから,英語で twist of point,フランス語でtorsades de pointesという名前がついています。この特殊な多形性VTは,QT延長症候群に伴って起こるのが特徴です。

救急現場における院外突然死

池田 先ほど,松田先生から,ホルター心電図装着中に急死した患者さんの解析データをご説明していただきましたが,最近,救急現場で院外突然死をきたした患者さんのデータを分析する試みがなされていると聞いています。

 五十嵐先生,救急現場で見ていて,心臓突然死の原因となる不整脈についてどのような印象をおもちでしょうか。

五十嵐 cardio pulmonary arrest(CPA)は心臓も肺も停止している状態であり,心電図ではpulseless VT/VF,pulseless electrical activity(PEA),asystoleの3つに分類されます。「SOS―KANTO」という日本救急医学会地方会の58施設では,救急救命士が現場に行ったときにVFであったのは約10%でした。他の90%がPEA,asystoleです。院外CPAの予後はいずれにおいても不良です。

 院外VF症例では,救急外来,または集中治療室で,VFに対する治療を行い,元に戻ったとしても,脳死状態になっているケースがほとんどです。つまり,VFは現場で洞調律にならないと,社会復帰はできていないというのが現実です。Lunaらの報告(Am Heart J 1989;151)では,頻脈性不整脈が80%で,徐脈性が20%となっています。やはり,頻脈性不整脈の割合が高いということです。この矛盾は救急車を要請して現場到着まで平均5~6分経過していることが大きい要因です。症状が出現したときに心電図があれば80~90%はVFであることが予想されます。通常,急性心筋梗塞患者の約50%は院外で死亡していると報告されており,我々がCCUや病棟で見ている患者は残りの半分ということになります。

池田 最初にVTが出て,それがしばらく続いてVFになる場合と,多形性VTや非常に速いVTですぐにVFに移行する場合の2つのパターンがあると思いますが,先生はどのような印象をおもちですか。

五十嵐 持続性VTでは頻拍周期が遅いと動悸,眼前暗黒感などの症状で意識がある場合があります。多形性VTやVFでは,意識がなくなって倒れてしまう。いわゆるVTからVFに移行する時点において意識がなくなります。頻拍周期と心機能により症状の出方が違います。

池田 それには器質的心疾患が少し絡んできますか。

五十嵐 私どものところで院外VF症例において解析したのですが,急性心筋梗塞や虚血関連の症例というのは70%くらいですね。残りの約20%が心筋症で,ほかにQT延長症候群,Brugada症候群がありました。

心室性不整脈を起こす基礎心疾患

池田 これまでの話から,心室性不整脈が心臓突然死の原因として多いということがわかりましたが,その基礎心疾患にはどういったものが多いかについてお話していただこうと思います。松田先生,どのようなお考えをおもちでしょうか。

松田 突然死をきたす最も頻度の高い集団は,一度心肺蘇生を受けた何らかの心疾患をもつ患者さんたちです。蘇生されたとしても,その後の1年以内に30%以上が突然死します。次に,欧米では心筋梗塞後の左室機能低下例が持続性VTあるいはVFを起こして,年間15~20%突然死するということで,非常に多い集団です。

 心筋梗塞以外に,拡張型心筋症,肥大型心筋症あるいは不整脈源性右室心筋症といった心筋症症例も突然死のリスクをもっています。

池田 肥大型心筋症についてはどうお考えですか。

松田 肥大型心筋症という病気は,全体でみると比較的予後が良好な疾患だといわれています。しかし,死亡の原因で最も多いのが突然死です。肥大型心筋症の突然死の実態はまだよくわかっていないのですが,失神の既往のある方,突然死の家系をもっている方,運動中に血圧が下がる方などが突然死しやすいといわれています。

池田 ほかに,二次性心筋症というものがありますね。例えば糖尿病や高血圧などに起因する心筋症ですが,こういったものは心臓突然死の原疾患として多いものでしょうか。

松田 おそらく,一次性の心筋症であっても,二次性の心筋症であっても,心筋障害が進んで,心機能,収縮能が低下してくれば,突然死のリスクは変わらないのではないかと私は考えています。

器質的心疾患がない特発性の 心臓突然死

池田 最近,心臓に何ら器質的病態のない健常者でも心臓突然死をきたすことがわかってきましたが,これにはどのようなものがありますか。

笠巻 今,松田先生が主に器質的な心疾患について述べられましたが,それ以外のものとしては,不整脈も含めてということになりますが,心房細動あるいは心房粗動,発作性上室性頻拍といった不整脈が,頻度はそれほど多くないですが,心臓突然死の原因として無視できないと思います。

 こういった不整脈について,1つは不整脈の側面から,他方では血栓の問題から考えてみる必要があると思います。これらは,一般にはそれほど危険であるとは認識されていません。しかし,例えば心房粗動であれば,1:1の心房粗動になってかなりの頻脈になります。そして,それが失神の原因などになるわけです。また,場合によってはそれがVT,あるいはVFを誘発する場合もあると思われます。

 心房細動の場合には,血栓の問題が心房粗動に比べて大きいのではないかと思います。心房細動では,血栓が死亡率に影響があることが既に指摘されており,心房細動全般で見ると,死亡率は約2倍に増加して,心臓突然死も増加することが既に報告されています。

WPW症候群,Brugada症候群, QT延長症候群

笠巻 次に,WPW症候群(Wolff-Parkinson-White Syndrome)がありますが,この場合に問題となるのは房室回帰性頻拍,発作性の心房細動であろうと思います。これらは場合によっては突然死の原因となるわけですが,特に注意しておかなければいけないのは,発作性心房細動で順行性のKent束伝導を有する場合には,幅の広いQRSの心脈となり,いわゆる偽性VTからVFを惹起して,心臓突然死につながっていく病態があります。

 また,近年注目されている病態として,Brugada症候群があります。Brugada症候群は,心電図上,右側胸部誘導で右脚ブロックパターンとST上昇を認め,QT間隔が正常で,突然死の既往を有する,もしくは家族歴を有する症候群です。この場合1つ注意しておかなければいけないのは,通常,交感神経の活性化は先ほどのVT,あるいはVFを悪化させる要因となりますが,Brugada症候群の場合には,むしろ交感神経の活性化はVFの発生を抑える方向に働くことです。逆にいうと,迷走神経の緊張が,Brugada症候群におけるVFの発生につながっていくということです。

 このほか,QT延長症候群があります。これは遺伝性のものとしてRomano-Ward症候群,Jervell Lange-Nielsen症候群があり,いずれも常染色体性の,前者は優性,後者は劣性遺伝とされており,遺伝子のチャンネルの異常であるということがわかっています。これらの場合も,心臓突然死の原因不整脈で指摘されたtorsades de pointesを引き起こし,それが突然死の原因になります。

 治療は,交感神経のβ遮断薬や,左側の正常神経節の切除,あるいは両者の併用が一般的に行われています。

池田 頻度は低いものの,器質的心疾患を伴わない病態でも心臓突然死をきたすことがよくわかりました。

心臓突然死を防ぐための救急対応

池田 次に,心臓突然死をきたす不整脈を診た場合の救急対応についてお話をうかがっていきたいと思います。最近,AED(automated external defibrillator:自動体外式除細動器)や,BLS(basic life support),ACLS(advanced cardiovascular life support)といった用語をよく耳にしますが,五十嵐先生,このような救急現場のキイワードについて,概略をお話しいただけますでしょうか。

五十嵐 VFまたは脈なしVTであった場合に,早期に治療することにより蘇生率がよくなり,社会復帰率もよくなるということが言われています。なるべく早く除細動をすることが重要です。そこで,現実に,ラスベガスやシカゴのオヘア空港でAEDを使った限りにおいては,蘇生率がよく,かつ社会復帰率もよいということが現実に示されています。最近日本でも,普及しつつあり,日韓で共催された前回のワールドカップの際にはサッカーの試合会場にも備えられていたのですが,現実には幸か不幸か,それは使われなかったということです。

 また,東京都CCUネットワークが患者の家族に対して普及を図るということで,東京都CCU連絡協議会と,東京都医師会が協賛で,昨年(2004年)10月20日に日本武道館で1,000人規模のイベントを行いました。台風の影響があり実際に参加したのは800人くらいで,医師とインストラクターが300人ぐらいでした。日本では,AEDが70~80万円くらいで,3つの会社が販売しています。今まで,医師たちは院内に閉じこもってばかりでしたが外へ出たわけです。

 いくらCCUができても,実際のVTやVFの治療は頭打ちで,心不全,ショック,心破裂などを合わせた心筋梗塞の院内死亡率は約5%くらいで,心筋梗塞に対してはそれ以上の改善はなかったということでしたので,それをもう少し外に広めようということです。

 AHA/ILCOR(米国心臓協会/国際蘇生連絡協議会)による「心肺蘇生法と救急心血管治療のための国際ガイドライン2000」では,BLSの中に除細動が入り,除細動はVFに対してクラス1という位置づけとなりました。患者に対して,その家族がBLSとAEDを併用した治療を早めに行うようにというのがその骨子になっています。

池田 日本でもAEDは徐々に普及していると思いますが,実際にはどのようなところに設置されているのでしょうか。

(つづきは本誌をご覧ください)


笠巻祐二氏
1985年日本大学医学部卒。同大第二内科,練馬区医師会立光が丘総合病院,春日部市立病院を経て,1993年カナダ,ダルハウジー大学医学部生理学教室博士研究員。96年より日本大学医学部第二内科に戻り,現在に至る。日本大学板橋病院循環機能検査室室長。内科専門医,循環器専門医,日本心電学会評議員,日本心臓ペーシング・電気生理学会評議員,日本臨床生理学会評議員

五十嵐正樹氏
1980年東邦大学医学部卒業。東京女子医科大学内科,東邦大学内科学第一講座,心臓血管研究所などを経て,1989年米国Case Western Reserve大学留学。1998年東邦大学内科学第一講座講師,2002年同病院救命救急センター副部長を兼務。内科専門医。循環器専門医。日本救急学会認定医。American Heart Association Professional Member

松田直樹氏
1986年金沢大学医学部卒。同年東京女子医科大学循環器内科入局。聖隷浜松病院循環器内科,佼成病院心臓科などを経て,2004年東京女子医科大学講師。日本心電学会評議員,日本心臓ペーシング・電気生理学会評議員,日本心不全学会評議員。現在の研究テーマは心不全治療,臨床不整脈。

池田隆徳氏
1986年東邦大学医学部卒。94~96年米国シーダス・サイナイ医療センター&UCLAに留学。現在,杏林大学医学部専任講師。日本内科学会指導医・専門医,日本循環器学会専門医,米国心臓病学会特別正会員,日本心臓病学会特別正会員,日本循環器学会関東甲信越支部評議員,日本心電学会評議員,日本心臓ペーシング電気生理学会評議員。