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【特集】

TPOで読み解く心電図

西原 崇創(東京医科大学八王子医療センター)


 心電図ほど永らく第一線で活躍している検査はないように思う.最近では,スマートフォンで心拍監視や心電図記録ができるようになり,患者自身が心電図を外来にもち込んでくることも珍しくなくなった.これほどポピュラーな検査でありながら,「心電図が読めない」「心電図は苦手」ということをよく聞く.意外と思われるかもしれないが,かく言う私も若い頃は,心電図アレルギーを患っていた.そんな私が心電図を読めるようになったコツは,ほんの些細なことに気をつけるようになってからだ.心電図が読めない,もしくは苦手という人は,多くの場合,重要所見と単なる異常所見とを同列に見てしまう.心電図には正常範囲とされる定義があるが,定義上「異常=病気」ではない.この当たり前に気づくことは,心電図判読上とても重要である.

 では,重要所見を見逃さないようにするにはどうすればよいだろうか? 例えば,胸痛や失神など,主訴や患者背景を基に具体的な疾患を思い浮かべながら重要な所見が隠されていないかを考えたり,想定した疾患と所見が矛盾しないかどうかを考えたりすることは,とても効果的である.60歳台男性の胸痛と,30歳台女性の同様な症状とでは,仮に同じような心電図所見であっても得られる結論が異なるのは当然であり,その際,些細な所見に過剰なフォーカスを当てるのはおかしなことだと思えるはずだ.

 つまり,「心電図を読める」というかなりの部分は,どのような時(Time)に,どこで(Place),どのような状況(Occasion)で記録されたかに応じ,柔軟に判読できる能力と言えよう.TPOをわきまえた振舞いは,社会人とって基本的スキルとされている.実は,心電図も与えられた場面で適切に読みこなすことこそが基本的なスキルである.「TPOで読み解く心電図」,奇をてらったタイトルのように思われるかもしれないが,決してそうではない.今回の特集の構成は,TPOで心電図の読み方がどのように変わるのかにフォーカスを当てている.そのため,すでに多くの書籍で書かれてきた基本事項は,あらためて振り返りが必要と思われるもののみにとどめた.個々の項目は,現場でよく遭遇する状況を想定し,単なる判読ではなく,心電図を足掛かりに疾患をシームレスに理解できれば,という思いを込めた.この企画を通じ,ダイナミックに広がる心電図の世界に触れ,1人でも多くの方が「苦手アレルギー」から解放され,読み解く楽しさを感じていただければと思う.