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【特集】

皮膚疾患が治らない!
皮膚科医が教える“次の一手”

出光 俊郎(自治医科大学さいたま医療センター皮膚科)


 「治らない」とは何か? 日常よくみる皮膚疾患の「治らない」には,さまざまなケースがある.例えば,治療が弱過ぎるために治らないことがある.初めの診断が間違っていて治らないこともあれば,治療中に別の皮膚疾患を併発していることもある.また,良くなったからと自己判断で治療を中断して悪化したときも「治らない」と患者は言う.薬局で「これはこわい軟膏です」と言われて患者が外用していなかったケースもある.そのほかにも,接触皮膚炎の原因が処方した外用薬であったり,顔面の皮疹が実は皮膚筋炎のような内科疾患の皮膚症状(デルマドローム)であったり,再発する紫斑や潰瘍が実は虐待によるものであったりすることがある.これらの可能性を見逃していれば,やはり治らない.さらに,湿布薬(ケトプロフェン)による光接触皮膚炎のように,治癒後も薬剤が皮膚に残存し,患部の光線過敏を繰り返す特殊な「治らない」ケースもある.最近ではインターネット情報が氾濫しており,間違ったスキンケアや外用方法のために治らないケースも少なくない.

 こうした「治らない」ケースに遭遇した場合には,剣術で最初の太刀を外されたときにどう体勢を立て直すかに通じるものがあり,パニックを起こすことなく,冷静に対処しなければならない.再診が初診よりも熟練を要するのは診断や治療を修正する必要に迫られるからであり,臨床医の腕と経験の見せどころである.まさに患者の「治らない」は臨床医を鍛えるのである.

 特に,皮膚疾患では診断はもとより,良くなっているかの判断も難しいことがある.「治っているはずだ,治っていてほしい」という期待が強いために,自分の治療で「治らない」という都合の悪い事実を素直に受け止められない研修医もいる.例えば,白癬にステロイド薬を外用すると,炎症が治まり,中心治癒傾向を示すため一見すると治っているように思える.しかし,よく見ると外側(遠心性)に拡大しており,実は治っていない.このように,皮膚疾患の診療では皮疹の正しい見方と冷静な論理的判断が求められるのである.自分の初期治療で「治らない」患者をさらに一歩進んで治しきるところに,臨床医としての矜持があるのではないだろうか.

 本特集では,日常診療でよくみる皮膚疾患について,それらが治らないときに何を考え,どう対処するべきかを解説するとともに,スキンケアなど患者指導のポイントや紹介のタイミングについても取り上げた.読者の一助になれば幸いである.

 最後に,筆者からのアドバイスとして,皮膚疾患の治療効果は長くても2週間程度をめどに評価し,改善がみられなければ皮膚科への紹介を検討いただきたい.安易に破れかぶれのステロイド薬内服投与などはしないのが鉄則である.