目次詳細・ご注文はこちら  電子ジャーナルはこちら

【特集】


プライマリ・ケア医のための
消化器症候学

小林 健二(亀田京橋クリニック 消化器内科)


 一般内科医が初診患者を診るとき,専門外来と異なり,すでに診断がついた状態であることは稀です.そのため,症状や身体所見,患者背景から鑑別診断を考えて検査を選択したり,必要に応じて症状を軽減する対応を行ったりすることが多いでしょう.日々の診療において,これらの作業が占める割合は非常に大きいと思います.そして,それは消化器症状を訴える患者の場合でも同様です.

 症候から診断に至るまでの過程では,個々の症例で考えるべき鑑別診断が異なりますし,落とし穴も潜んでいます.例えば,消化器症状を訴えていても,その原因は消化器疾患とは限りません.消化器だけに目を向けていると,重大な徴候を見落としてしまう恐れがあります.しかし,だからと言って,その症候から疑われる鑑別疾患をしらみつぶしにチェックしようと検査を乱発することは,非効率的であり,限られた医療資源の濫用につながります.それに,何よりも患者に負担を強いるだけです.

 診断がついた患者のマネジメントは医師の大切な仕事です.一方で,その前の段階,すなわち,患者の訴えをよく聴いて診察し,なるべく負担のかからない検査をして診断につなげる,あるいはタイムリーに専門医へコンサルトすることも,すべての内科医が果たすべき重要な役割です.

 このように,症候から診断に至るまでのアプローチは日常診療において大きな割合を占めているわけですが,わが国の書物を紐解くと,個々の疾患については多くのページを割いているものの,診断に至るまでのアプローチについて解説したものは比較的少ないのが現状です.欧米の内科学あるいは消化器領域のテキストが,主要な症候に関して多くのページを割いているのとは対照的です.日々の診療内容を考えれば,もう少し症候学に関するテキストがあってもよいのではないかと常々感じていました.

 今回は,一般内科医が初診で遭遇しうる消化器関連の訴えに対して,どのようにアプローチすべきかというテーマで特集を企画しました.執筆をお願いした先生方には,日常診療で遭遇する頻度が高いcommonな疾患と,頻度は低いものの,見逃すと患者の転帰に重大な影響を与えうる疾患を中心に解説していただきました.

 患者はあなたに診断名を伝えるのではなく,困っている症状を訴えます.その訴えを解決するために,本特集が少しでも役立てば幸いです.