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【特集】

内科救急サバイバルブック
院内救急&地域でのマネジメント

濱口 杉大(江別市立病院総合内科)


 市中で緊急事態が生じた場合,第一発見者は患者本人,家族,友人,あるいは市民であり,次に救急車でかけつけた救急隊員が対応し医療機関へ搬送後,医師が引き継ぐ.院外発生の救急医療ではこうした連係プレーが重要である.このことを踏まえて,この10年ほどの間にAED(自動体外式除細動器)の設置や一般人向けのBLS(一次心肺蘇生法)の講習会が増加し,救急隊による早期救命処置の範囲も拡大された.また各病院でACLS(二次心肺蘇生法)などの救急蘇生コースが開催され,多くの医師が参加している.さらに全国多数の施設にドクターヘリが配備され,搬送における時間的障壁が一部解決されている.

 このように発展してきた日本の救急診療であるが,「院内救急」という分野はまだ十分議論されていない.通常,第一発見者は医療関係者であることが多く,そこに市民や救急隊は存在しない.また,場所が院内であることから,医療介入までの時間が短い.そして何より大切なことは,緊急事態の原因が救急外来での症例とは異なるケースも多く,異なる鑑別疾患,異なるマネジメントを要求される場合があることである.

 院内緊急事態に対応するのは,通常,各科の主治医や当直医である.各専門科が揃っている都市部の大規模病院であれば,マンパワーもあり,夜間・休日でも普段とほぼ同じレベルの検査や治療が可能である.しかし地方の中小規模病院では,専門科へのコンサルテーションができずマンパワーも少なく,検査も限られる状況が多い.また,高齢患者やADLの低下した患者の入院も比較的多く,その社会的背景から,医学的理由だけで高次医療機関への搬送を決定できない難しさもある.

 以上を踏まえて,今回,内科救急のなかでも特に「地域医療を担う地方の中小規模病院における院内救急」に焦点を当てることとした.はじめに比較的よく遭遇する院内緊急事態の症候を取り上げ,その診断とマネジメントを解説していただき,次に医療リソースの少ない地方病院の院内救急で役立つ病歴情報収集,身体診察,基本的検査についてレビューをいただき,さらに医学的側面以外の重要な対応や準備についても経験ある臨床医からレビューしていただいた.そして最後に,地方における救急医療の現状を現場から伝えていただいている.各論文の筆者はまさに地域の病院で活躍されている第一線の内科医たちである.ご多忙のなか執筆いただいた先生方には心から感謝申し上げたい.この特集が地域の現場で働く医師の一助となり,また若手医師に対して地域医療への興味の架け橋となれば幸甚の至りである.