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【特集】

心電図を詠む
心に残る24症例から

香坂 俊(慶應義塾大学医学部循環器内科)


 心電図の読み方を示してくれる教科書は数多く存在する.米国ではMarriott1)やDubin2)らによるテキストが標準的であり,マニアックな向きはChouなどを引用する3).他方,かなり専門的ではあるが,Coding(ミネソタコード)を学ぶためのO'Keefeなどといったテキストも存在し4),こちらは循環器内科専門医試験の際などに人気を集める.

 わが国でも非常に読みやすい教本やマニュアルが幾つか存在し,なかには秒単位で心電図が読めるようになったり5),あまつさえ小学生を対象としたものまで存在するという6).心電図を現場で活用するに当たっては,こうした成書を読み込むことによって基本的な「型」を身につけることができよう.

 では,今回のような専門誌の特集では,心電図のどの側面が扱われるべきだろうか? 総まとめのような内容も考えるには考えられたが,いかにも手っ取り早く安易で,さらに雑誌という媒体の敷居の低さや速報性を活かしきれていないように思われた.

 そこで,本特集では今回現場からの心電図の物語の「回収」を提案させていただいた.心電図という検査は数分で行うことができ,さまざまな場面で広く活用されている.また,非常にアナログな情報であり,その波形のもつメッセージは読み取る医師の主観や状況に左右されやすい.それゆえに誰しも「心に残る心電図」というものをもっている(と言われている).

 そうした心電図を,第一線の先生方に紹介していただき,その時,その場面で,その心電図がどのような役割を果たしたのか語っていただくというのが本特集のコンセプトである.さらに,そこにはさまざまな医療の「断面」が切り取られて存在するはずであり,そうした内容も併せて掘り起こせればと考えた.

 成書から基本を身につけ,その「型」のうえに実践を重ねていくことはclinical learning(臨床的な教育技法)の基本であり,心電図といえども例外ではない.本特集は言ってみれば,心電図の実践的な活用への誘い(いざない)である.心電図を通して展開される数々の物語を通じ,読者の方々の臨床的な興味を汲み上げることができたならば,編者にとってこのうえない喜びである.

文献
1)Wagner GS, Strauss DG(eds):Marriot's Practical Electrocardiography, 12th ed, LWW, 2013
2)Dubin D:Rapid Interpretation of EKG's, 6th ed, Cover Pub Co, 2000
3)Surawicz B, Knilans T:Chou's Electrocardiography in Clinical Practice, 6th ed, Saunders, 2008
4)O'Keefe JH Jr, et al:The Complete Guide to ECGs, 4th ed, 2016
5)山下武志:3秒で心電図を読む本,メディカルサイエンス社,2010
6)香坂 俊:もしも心電図が小学校の必修科目だったら,医学書院,2013