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【特集】

脳卒中はこう診る
新ガイドラインで何が変わったか

西山 和利(北里大学医学部神経内科学)


 脳卒中は日本人の国民病である.頭部画像診断が進歩するまでは,脳卒中は日本人の死因の第1位であり,有効な治療法が乏しい分野であった.さらにはほかの臓器疾患に比して脳卒中を専門とする医師数は少なく,兎にも角にも脳卒中は「治らない疾患」というイメージが強かった.やがて,頭部CTやMRIの登場,血圧管理をはじめとする危険因子管理の向上などに伴い,本邦における脳卒中の死亡率は明らかな低下を示した.しかし,多くの医師や関係者の努力にもかかわらず,脳卒中はいまだ本邦における死因の第4位,寝たきりになる原因の第1位の地位にある.すなわち,脳卒中は一命をとりとめても,後遺症に苦しむ患者が多いことを意味している.

 昨今の脳卒中治療の発展には目を見張るものがあり,脳卒中は予防にも治療にも長足の進歩がある.そうした進歩を具に知るには論文にあたるのが王道であるが,脳卒中に関する論文だけでも毎年数万にも及び,それらをすべて把握することは不可能に近い.そこで現代医学においては,治療の道標になるものは科学的証拠に基づいて作成されるガイドラインということになる.脳卒中の治療ガイドラインは2009年に改訂されて以来,今回6年ぶりの全面改訂がなされ,「脳卒中治療ガイドライン2015」が2015年6月に発刊された.

 新しいガイドラインでは脳卒中の超急性期治療,急性期治療,慢性期治療,リハビリテーション,医療連携,全身管理など,脳卒中の治療に関するエビデンスが広い範囲にわたって網羅されている.そのためにこのガイドラインは300頁超に及ぶ大作となった.ガイドラインは最新のエビデンスを効率よく把握できるように作られてはいるが,日常診療に忙殺されている一般医家の先生が,特に脳卒中を専門としていない医師が,ガイドラインの隅々までを理解することには若干の困難を感じることもありうる.そこで今回は「脳卒中はこう診る~新ガイドラインで何が変わったか」と題した特集を組ませていただいた.

 本特集では,30名の脳卒中診療の専門家に,脳卒中の疫学や現状,脳卒中の診断,急性期治療,予防治療と慢性期治療,を詳しく解説していただき,さらには脳卒中についての最新の話題にも紙面を充当した.口幅ったいようだが,この1冊を読めば,脳卒中治療ガイドライン2015の理解にとどまらず,2015年時点での脳卒中診療のほぼすべてがわかる,といったものを目指した特集である.本特集を通じて,1人でも多くの方に脳卒中治療の最新情報に精通していただき,質の高い脳卒中診療が本邦に普及すれば,本企画の立案者としては望外の喜びである.