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【特集】

糖尿病治療薬Update
適正使用に向けて

長坂 昌一郎(昭和大学藤が丘病院糖尿病・代謝・内分泌内科)


 2009年のDPP-4阻害薬の発売以来,糖尿病診療は大きな転換期にある.2010年にはメトホルミン製剤の増量が可能となり,またGLP-1受容体作動薬も上梓され,さらに2014年にはSGLT2阻害薬も発売された.多彩な選択肢は大きな魅力であり,糖尿病データマネジメント研究会の報告でも,糖尿病患者の血糖コントロールが全般的に改善していることが窺える.一方,経口薬の選択や併用のあり方,GLP-1受容体作動薬やインスリン導入のタイミングなど,実臨床に混乱が生じていることも否めない.

 2010年にはHbA1cを取り入れた新しい糖尿病の診断基準が発表され,2013年には患者の個別性を重視した新しい治療目標(HbA1cの目標値)が発表された.また,2010年には持続血糖モニタリングが保険適用となり,HbA1cはあくまでも平均血糖の指標であり,個々の患者の血糖変動を必ずしも反映しないことも明らかになった.さらにここ数年,重症低血糖と心血管合併症との関連,糖尿病自体ないしその治療薬と癌との関連,糖尿病と認知症との関連など,糖尿病合併症を新しい視点から捉えたデータも蓄積されてきた.

 今回の特集では,まず血糖コントロールの目標設定の考え方や初診時の治療戦略を,Overviewとしてまとめていただいた.続いて経口血糖降下薬の特性について整理し,2型糖尿病治療の第一選択薬や併用療法,経口薬では効果が不十分な例への対応などを重点的に取り上げた.1型糖尿病については,膵島自己抗体の意味付けや,治療に関わる進歩をまとめていただいた.個々の患者に対する患者管理のポイントとしては,高齢患者,重症低血糖とコーチングについて取り上げた.また合併症治療の進歩として腎症と神経障害について,トピックスとして糖尿病治療薬と癌や骨との関係を取り上げた.

 いずれもエビデンスやエキスパートの先生方の臨床経験に基づいた,日常診療に役立つ実践的な内容となっている.本特集を参考に,糖尿病治療のさまざまな側面について理解を深め,治療薬の「適正使用」に結びつけていただければ幸いである.また初学の先生方は,引用文献などを参考に,さらに学習を深めていただきたい.最後に,本特集では取り上げなかったが,特に2型糖尿病治療では,食事・運動療法なしで治療薬の「適正使用」はあり得ないことを強調しておきたい.