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特集

神経診察
そのポイントと次の一手

山脇正永(京都府立医科大学総合医療・医学教育学)


 "Examination of the nervous system and analysis of your findings are particularly fruitful areas of patients study in which you can sharpen your clinical skills and diagnostic acumen."(Lauren L. Welch in Major's Physical Diagnosis

 「神経系の診察を行うことと,実際に得た所見を考察・分析することは,自分の臨床スキルと鑑別診断能力を磨く非常に充実した方法である.」

 上記の言葉は古い診断学の教科書に記載されたものであるが,神経所見は自身の臨床センスを磨く良いトレーニングになるという点には非常に共感を覚える.現在の医療において,われわれは種々の検査法,画像診断に頼ることが多い.時間的制約(time window)の面からもこれは間違いではないが,「スクリーニングとして検査をする」のと「あるべき所見を期待して検査をする」のとでは,その臨床センスの違いは明らかである.

 神経系の構造と機能は厳密に関連していることから,症候と症状を正確に取り解釈することにより,原因病巣の局所所見(解剖学的所見)を正確に推定できる.さらに,神経系の疾患では,病巣の箇所のコンビネーションが明らかになれば鑑別診断が容易になることがしばしばある.例えば,「錘体路障害と後索の障害の合併するパターン」であればビタミンB12欠乏による連合変性症を,「Parkinson症状(錐体外路障害)・小脳失調と自律神経障害のパターン」であれば多系統萎縮症を疑うことになる.また,神経所見では神経系だけでなく,一般身体所見,心理的所見も重要な要素となる.この意味でも神経診察は,患者をトータルにみるトレーニングを積むことができる.その基本として,「正確に所見が取れること」と,「得られた所見を読む(解釈する)こと」は重要となってくる.

 本特集では,この2点を意識しながら,読者対象として若手医師から神経内科以外の専門医を想定し,総合内科・総合診療の日常診療において実践的で役立つ内容とした.往々にして聞く,神経診察への苦手意識が少しでも低くなることを目標とした.頻度の高い主訴・症候について,病歴→身体診察→検査計画を範囲とし,身体(神経)診察を中心に解説している.特に愁訴・病歴→検査という流れではなく,身体診察の重要性を読者に再認識していただきたい.

 皆さんができるだけ神経診察を行い,それを通して皆さん自身の診療スキル,臨床センスを養っていただくことを期待する.