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特集

新時代の肺炎診療

石田 直(公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院呼吸器内科)


 2011年,肺炎は脳血管障害を抜いて,わが国の死亡原因の第3位に浮上した.その死亡者のほとんどは60歳以上の高齢者であり,年齢が上がるにつれ,肺炎の罹患率,死亡率は加速度的に増加している.高齢者が誤嚥性肺炎を反復して発症し,その診療に苦慮することは,臨床医ならば誰しもが経験していることと推定される.1898年にSir William Oslerが述べた,「肺炎は老人の友である」という言葉は,100年以上経過した今日においてもまさしく至言である.このような超高齢社会と高齢者肺炎の増加を背景として,2011年には日本呼吸器学会から,医療・介護関連肺炎(NHCAP)という新しい肺炎のカテゴリーの概念も発表された.

 一方,抗菌薬治療の進歩にもかかわらず,若年者層においてもしばしば重症や劇症型の肺炎が認められ,治療の甲斐なく不幸な転帰をとる例も経験される.各種の細菌学的・遺伝子学的検査法の発達はみられているが,肺炎の原因微生物の判明率はいまだ満足できるものではなく,多くの場合はエンピリックセラピーが行われている.院内肺炎においては各種の薬剤耐性菌が問題となり,新規抗菌薬の開発も以前ほど盛んではない.肺炎は,いまなお臨床医にとって最も重要で困難な疾患の1つである.

 また,高齢者の誤嚥性肺炎増加に伴い,肺炎治療においては抗菌薬の投与のみならず,栄養,リハビリ,口腔衛生などの補助的な治療も含めた集学的なマネジメントが求められるようになっている.それとともに,反復する肺炎,老衰としての肺炎,終末期肺炎に対しては,延命治療の可否,看取りの医療への移行などの倫理的な問題も生じており,このような事例にいかに対処していくかについて,医療関係者のみならず社会全体でのコンセンサスづくりも必要である.

 本特集では,肺炎診療の現況および今後の展望を,市中肺炎,院内肺炎,医療・介護関連肺炎の3つのカテゴリーに大別して解説いただくこととした.いずれのカテゴリーについてもガイドラインが発表されているが,それぞれのガイドラインの考え方やそれに準拠した治療について概説していただき,さらには問題点についても触れていただくようにしている.また,高度先進医療も含めた肺炎の治療や予防,近年における各分野でのトピックスも項目として加えることとした.執筆者は,いずれも医療現場で数多くの肺炎を実際に診療しておられる先生方であり,臨床現場からの視点でpracticalな解説をしていただけるものと期待している.本特集を読んでいただいた非専門医の先生や若いドクターが,肺炎というcommonな疾患の現況を理解して興味をもっていただけるならば幸甚である.