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特集

エマージェンシーの予兆を察知する
リスクを評価し危機に備える

野口善令(名古屋第二赤十字病院総合内科)


 エマージェンシーというと,心肺停止,ショック,急性冠症候群など,いかにも緊急を要する救急・重症疾患の病名が頭に浮かぶ.これまでの本誌のエマージェンシー特集はこれらの緊急事態が起こってしまってからの対応に重点が置かれてきた.

 確かにエマージェンシーへの対処を心得ておくことは重要であるが,緊急事態が起こってしまってから慌てて対応するのには限界がある.いままで安定していた入院患者が急変した場合など,頭が真っ白になってしまってうまく対応できず,後で悔やんだ経験は誰にでもあるだろう.さらに,救急・重症疾患でも,必ずしも重症そうな外見で救急搬送されてくるとは限らず,軽症そうなウォークイン患者や,非典型的な病像患者が診療中に急変することがある.実はこれらの予期しない急変や,最初は軽症そうに見えて進行の速い経過で悪くなるケースが現場ではトラブルの種になりやすい.

 そこで,今回は少し視点を変えて,危機(crisis)が起こってからの「危機管理」よりも起こる前の備え「リスクマネジメント」に重点を置いた特集を組んでみた.

 一見大したことはなさそう,まだ時間の余裕がありそうという状況のもとで,いかに危機の予兆を嗅ぎとり先手をうって対処するかという視点から以下のテーマを選択し,臨床の最前線で活躍する先生方にトピックの執筆をお願いした.

 ●バイタルサインから緊急性を読みとる
 ●症候に潜むリスクを評価する
 ●リスクの組み合わせから隠れた危険を察知する
 ●予期しない検査異常(パニック値)に対応する
 ●疾患名に潜むリスクを評価する
 ●リスクとコミュニケーション

 日常臨床において,見逃しがちなバイタルサインの異常,ありふれた症候のなかに潜む危険,特徴的なリスクの組み合わせ,予期しない検査異常からどうやって不安定化,重症化のきざしを認識し,次に起こるかもしれない危機にどう備えるかを考える寄す処になれば幸いである.