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特集

進化し続ける内科診療
世界が認めたブレイクスルー

上野文昭(大船中央病院)


Japan Domestic から Global Standard へ

 『medicina』の創刊から半世紀が経過した.筆者が医学に無縁でBeatlesにうつつを抜かしていた中学生の頃から,本誌は日本の内科医に常に適正で最新の医学情報を提供し続けていたわけである.当時から日本は文化的な先進国であった.世界に誇れる診療行為も決して少なくなかったはずである.しかし,そこに自惚れと慢心があったのではないだろうか.日本のよさを世界に発信して公平な評価を得ようとせず,また世界のよさを取り入れようともせず,日本独自の内科診療が形成されていった.筆者が米国での臨床研修から戻った1970年代には,臨床におけるあまりの隔たりに愕然とした.特に専門領域の医学誌が伝統芸能の保存に執心しているなかで,『medicina』だけは異端児のような存在であり,世界の内科医たちと情報共有が可能であった.

 やがてIT化の波が押し寄せてきた.情報が瞬時に共有されるフラットな世界があらゆる分野で形成され,医学においても例外ではなくなった.蛙の住んでいた小さな井戸がいきなり大海と繋がった今日,若干の人種差や文化の相違は別として,Global Standardを否が応でも意識せざるをえない時代となった.現代の日本の臨床医学は世界のよさを素材としながら日本の味付けで仕上げた美味しい医療の提供を可能にしている.半世紀にわたり気を吐いていた『medicina』がようやく異端児ではなく,当たり前の存在として認められる時代が到来しているように思われる.

 記念すべき本号では,半世紀にわたる内科診療の進歩を,そのブレイクスルーとなった出来事を含めて解説していただいた.ご執筆の先生方はいずれもその進化の過程を診療や研究で体験され,現在もオピニオンリーダーとしてご活躍の方々である.日本を代表する先生方の長い年月にわたるご苦労の成果を一気読みできようという贅沢な企画である.経験深い読者諸氏には内科診療の変遷を感慨深く振り返っていただけることと思う.また,若い読者諸氏は現状に満足することなく,いま当たり前のことがどのようなきっかけで確立されたかを知りながら,今後のさらなる進歩に向けた医学研究に取り組んでいただきたいと願う次第である.

 伝統ある『medicina』の編集に携わることができたのは筆者の医師人生で最も光栄で価値のあるブレイクスルーであり,進化し続ける『medicina』を築いてくださった諸先輩方と医学書院の関係者に深謝いたしたい.