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今月の主題

痛風・高尿酸血症診療の新展開

山中 寿(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター)


 痛風は紀元前にすでにヒポクラテスが記載した歴史の長い疾患であり,最古の生活習慣病と呼べるかもしれないが,一方で現在社会において生活習慣の変容に伴い急速に増加した現代病でもある.高尿酸血症という代謝異常が関節炎を臨床症状として発症する特徴的な病態ではあるが,近年その頻度は増加している.また,その原因である高尿酸血症も増加しており,血清尿酸値は検診項目の中で異常値と判定される頻度も高い.つまりプライマリケアにおいても正しい対応が必要とされる疾患である.

 最近,痛風や高尿酸血症に対する関心は特に欧米において非常に高まっている.2011年11月に開かれた米国リウマチ学会では痛風の臨床に関するセッションは満員状態であった.痛風は過飽和になった尿酸ナトリウム結晶が関節内に蓄積することによって生じる関節炎であり尿酸塩沈着症(urate deposition disease)である.その原因は高尿酸血症であり,日本ではこの点を重視して高尿酸血症に対するマネジメントが歴史的に行われてきた.そして遺伝性痛風の遺伝子や尿酸トランスポーター,新規キサンチンオキシダーゼ阻害薬から診療ガイドラインに至るまで,最近の痛風・高尿酸血症に関するさまざまな新知見は日本から発信されてきた.さらに,メタボリックシンドロームなどの代謝性病態においては尿酸ナトリウム塩の沈着を介さない尿酸の害もあることが推定されており,この分野における日本発の情報は今後もさまざまな展開が期待されている.このように日本は今や痛風・高尿酸血症治療の先進国である.その帰結の一つとして日本の痛風には重症例は多くない.

 これに対して,かつては痛風研究の先進国であった欧米では高尿酸血症に対するマネジメントが必ずしも十分ではなかったといえる.その結果として欧米には重症の痛風が多く,“difficult gout”とか“refractory gout”などの表現が使われて学会などでも問題になっている.生活習慣病においても疾患の原因が明らかであれば,それを排除することがいかに大切であるかを示す一例ともいえ,疾患と治療介入の必要性を考察するうえでも興味深い現象でもある.

 本特集では,高尿酸血症・痛風の日常診療に役立つ技術論のみならず,痛風の歴史に始まり,尿酸が蓄積するメカニズムから,そのリスクに至るまでの幅広い知識を理解していただくことを目的として構成した.多くの先生方の日常診療にお役立ていただければ幸甚である.