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今月の主題

睡眠呼吸障害の克服
-内科医が知っておきたい病態・症状・関連疾患

陳 和夫(京都大学大学院医学研究科 呼吸管理睡眠制御学講座)


 睡眠呼吸障害は頻度の高い病態で,本邦でも高血圧,糖尿病,虚血性心疾患,心不全などの生活習慣病の数割以上の患者に睡眠時無呼吸が合併することが明らかになりつつあります.2005年に『成人の睡眠時無呼吸症候群 診断と治療のためのガイドライン』が発刊されましたが,2003年に米国高血圧合同委員会第7次報告(JNC-7)で,本邦でも『高血圧治療ガイドライン2009』で睡眠時無呼吸は二次性高血圧の原因の一つと認められ,二次性高血圧の最も頻度の高い要因となっています.さらに,2010年には日本循環器学会からの『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』が発刊されました.2008年には国際糖尿病連合が閉塞性睡眠時無呼吸と2型糖尿病の関連を示唆する声明も出しています.

 また近年,睡眠呼吸障害の疾患分類・診断にも変化があり,新しい治療機器も登場しています.閉塞性睡眠時無呼吸治療の基本となる持続気道陽圧(CPAP)の社会保険下の使用台数はすでに約17万台を超え,毎年15,000~20,000人の患者増加をみています.したがって,日常診療で遭遇する頻度が高く,Harrison内科学(第17版,2008年)に示されているように重要な病態になりつつあります.睡眠時無呼吸重症例の脳心血管障害合併による予後の悪化が明らかになるにつれ,CPAP治療などの普及,予防策としての小児からの治療,成人重症例への進展予防も重要と考えられます.睡眠時無呼吸による日中の過度の眠気は交通事故の発生,社会生活を送るにも支障をきたすことがあります.また,睡眠時無呼吸の結果として起こる低酸素血症には持続的な低酸素と間欠的な低酸素の2つの要素があり,それぞれの病態生理が解明されつつあります.

 このように睡眠呼吸障害は新しい展開を示しつつ,その克服は生活習慣病の管理予防の点からも極めて重要です.本誌では2007年7月号に「内科医が診る睡眠障害」として特集が組まれましたが,今回は睡眠障害のなかでも一般臨床医が遭遇する機会が多いと考えられる睡眠呼吸障害の現況について特集を組むことになりました.睡眠時間の短縮そのものが,生活習慣病の病態に悪影響を与えることも明らかになりつつありますが,適切な睡眠時間と睡眠時無呼吸を含めた睡眠呼吸障害の克服が一般臨床のなかでも既存の生活習慣病の治療に加えて重要であることへの認識の高まりに,本特集が少しでもお役に立てば喜ばしいことです.