HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻8号(2008年8月号) > 連載●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療
●見て聴いて考える 道具いらずの神経診療

第8回テーマ

主訴別の患者の診かた(3)
ふるえを訴える患者の診かた

岩崎 靖小山田記念温泉病院 神経内科


 「ふるえ(震え)」という愁訴は神経内科領域では比較的多く,中枢神経疾患を心配して受診する患者が多い.神経学的には「振戦(tremor)」を指し,不随意運動のなかでは最も頻度が高い.生命にかかわる重篤な病態が隠れている頻度は少ないが,日常生活上において問題となっている場合が多く,適切な対応を行うことが患者のQOLの面からも重要である.

 今回は「ふるえ」を訴える患者の問診法と視診での観察点について解説し,日常診療で頻度の高い鑑別疾患について鑑別のコツを概説したい.


■振戦の分類と責任病変

 振戦は,最も強く出現する状況から「安静時振戦(resting tremor)」と「動作時振戦(action tremor)」に大別される.

 安静時振戦は「静止時振戦」とも呼ばれ,Parkinson病に伴ってみられることが多い.上肢であれば,手を膝の上に置いて,リラックスした状態が最も出現しやすい.責任病変は主として,大脳基底核と推定される.

 動作時振戦は,ある一定の姿勢や肢位を保とうとして筋を緊張させたときに出現する「姿勢時振戦(postural tremor)」と,随意的な運動時に出現する「運動時振戦(kinetic tremor)」に分けられる.両者が混在することもあるが,目標物に達した際に振戦が停止すれば運動時振戦が,目標に達してもふるえが激しい場合は姿勢時振戦が主体である.運動時振戦のなかでも,目標物に近づくとより強くなる振戦を「企図振戦(intension tremor)」と呼ぶ.高度な例では示指を左右から合わせるように指示すると,フェンシングをしているように手指が回転し激しくふるえるため,「決闘者徴候」とも呼ばれる(図1).姿勢時振戦は主として中脳の赤核と延髄の下オリーブ核の障害,運動時振戦は小脳の障害が責任病巣として推定されるので,これらを鑑別することにより責任病巣をある程度鑑別することもできる.

■問診で尋ねること

 振戦は「ふるえる」と訴えられることが多いが,「けいれんする」,「ぴくぴくする」,「ぶるぶるする」と訴えられることもある.振戦以外の不随意運動(ミオクローヌスやバリスム,ジストニアなど)を「ふるえる」と訴えることもあるので,患者が訴える「ふるえ」の内容が振戦を指すのか,それ以外の症候を指すのかをまず鑑別しなければならない.そのためには問診よりも後述の視診が重要である.

 問診では体のどこが,どのように動くのかを尋ねる.ふるえの部位で最も多いのは手であるが,足,頸部,下顎,声のふるえを訴える患者もいる.また,ふるえがいつから始まったか,どのようなときに出現するのかを尋ねる.

(つづきは本誌をご覧ください)