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●手を見て気づく内科疾患

第1回テーマ

ボー線,重篤な病態の証拠

松村正巳(金沢大学医学部付属病院 リウマチ・膠原病内科)


図1 左第1 に爪白癬,ハーフアンドハーフ爪の所見を認める
図2 爪の生え際から約4.5 mm のところに,横方向に走るボー線を認める
図3 3 本のボー線を認める(矢印)
本連載では,身体診療の一部である手の観察について記載します.注意深く観察すると,診断の鍵となる,とても多くの情報が潜んでいることに気づいていただけるでしょう.

患者:74歳,女性
病歴:腎硬化症から腎不全となり,1年前に血液透析に導入された.1カ月前から微熱,胸部異常陰影を認め,間質性肺炎の診断にてプレドニゾロン20 mg/日の投与が開始された.プレドニゾロン減量中に呼吸不全を呈し,集中治療室(ICU)に入室した.
ICU入室時身体所見:左第1に爪白癬,Half-and-half(ハーフアンドハーフ爪:爪の遠位部が褐色を呈し,爪の近位部は白色を呈する.爪の半月は消失している)を認めた(図1).

ICU入室後,気管内挿管,人工呼吸器管理となった.呼吸不全の原因はカリニ肺炎と判明し,ST合剤の投与により回復した.

第45病日(回復期):爪の生え際から約4.5 mmのところに溝として横方向に走るBeau’s line(ボー線)を認めた(図2).

爪白癬は透析患者,糖尿病,ステロイド投与中の患者でよく観察されます.

ハーフアンドハーフ爪は慢性腎不全患者で頻繁に観察される所見です.爪の遠位部のメラニン色素沈着による褐色化と近位部の白色化が,爪のコントラストを呈し,ハーフアンドハーフ爪と言われています1).似た所見にTerry’s nail(テリー爪)があります.爪の遠位端が赤褐色を呈し,近位部は白色を呈し,半月が消失しています.肝疾患,心不全,糖尿病,加齢で認められる所見です2).肝硬変の80%でテリー爪を認めたとする報告があります3)

ボー線は横方向に走る溝として認められます.1846年に最初に記載されました.爪の成長を一時的に抑制するような重篤な疾患に罹患したとき,また何らかの化学療法を受けたときに発生します1, 4).図3は血液疾患の患者で過去4カ月の間に3回化学療法を受けた患者の爪の所見です.ボー線は,ほぼ全指に認めます.爪の成長は10日で約1 mmです.つまり,爪の生え際からボー線までの距離は,重篤な病態から何日経過したかを知る手がかりになります.

身体診察は,注意深く行うことによって,さまざまな所見を引き出せるようになります.

(つづく)

文献
1)Fawcett RS, et al:Nail abnormalities;Clues to systemic disease. Am Fam Physician 69:1417-1424.2004
2)Bickley LS, Szilagyi PG:第5章 皮膚,毛,爪,ベイツ診察法,pp 121-151,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2008
3)Mayeaux EJ Jr:Nail disorder. Prim Care 27:333-351, 2000
4)Mortimer N, Mills J;Beau’s Lines. N Engl J Med 351:1778,2004


松村正巳
1986年自治医科大学卒.2年間の全科ローテート研修後,石川県内で診療に従事.著書に『ティアニー先生の診断入門』(ローレンス・ティアニー氏との共著)がある.