●聖路加Common Diseaseカンファレンス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
第9回 あなたは肺炎球菌髄膜炎を診療できますか? 上原由紀・古川恵一(聖路加国際病院内科感染症科)
■症例1
指導医 今日は,内科的緊急疾患として適切な診断と治療が求められる,肺炎球菌髄膜炎の勉強をします.
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周産期~生後1カ月まで Group B Streptococcus, Escherichia coli, Listeria monocytogenes 生後1カ月~50歳まで Streptococcus pneumoniae, Haemophilus influenzae(特に2歳以下),Neisseria meningitidis(流行地) 50歳以上,アルコール多飲,細胞性免疫低下者 Streptococcus pneumoniae, Listeria monocytogenes, Klebsiella sppのほか,Gram陰性桿菌 |
最近の頭頸部,耳鼻科領域の感染症(感冒症状含む) 定着した細菌が直接侵入 副鼻腔炎や中耳炎から細菌が直接侵入 (肺炎球菌,Haemophilus spp) 肺炎,心内膜炎,尿路感染症 血行性に侵入(黄色ブドウ球菌,Klebsiella,肺炎球菌) 頭部外傷(穿通性骨折や頭蓋底骨折),VPシャント 直接侵入 脾摘,無脾症,補体欠損症,ステロイド使用,HIV感染 特定の菌に弱くなる(表3参照) 生乳製品や出来合いの総菜を摂取(リステリア) 最近の髄膜炎患者への曝露歴 飛沫感染で伝播するものが多い 最近の旅行歴 アフリカのサハラ砂漠周辺(髄膜炎菌流行地域)など |
宿主の状態 | 頻度の高い起因菌 | 年齢や頻度など |
抗体欠乏 | S. pneumoniae | 全年齢 |
H. influenzae | 乳幼児 | |
無脾臓 (先天性,手術など) |
S. pneumonia | 稀 |
N. meningitidis | とても稀 | |
補体欠損 | N. meningitidis | とても稀 |
コルチコステロイド使用 | L. monocytogenes | 稀 |
C. neoformans | 稀 | |
HIV感染 | C. neoformans | およそ5%が感染/発症する |
S. pneumoniae | よくみられるAIDS指標疾患 | |
L. monocytogenes | 稀 | |
菌血症/心内膜炎 | S. aureus | よくみられる |
肺炎 | S. pneumoniae | よくみられる |
腎盂腎炎 | K. pneumoniae/oxytoca | 稀 |
頭蓋底骨折 | S. pneumoniae or other oral flora | とても稀 |
では,実際の診療の流れを考えましょう.最初に何をすればよいですか?
研修医A 髄膜炎なので,まず髄液検査をしないと診断できないと思います.また,髄液のGram染色を行い,肺炎球菌を確認してから抗菌薬を決定したいです.その前に,意識障害の原因として,出血や腫瘍,膿瘍などの頭蓋内病変がないことも頭部CTで確認すべきだと思います.
研修医B 血液培養を2セット採取します.
指導医 診断に必要な検査についてはこれでよいと思いますが,順番はどうしますか?
研修医A やはり髄液検査をしないと…….
研修医B その前にCTかな…….頭蓋内病変があると,髄液検査は危険ですから.
指導医 実際に救急外来で行われた診療の流れをみてみましょう(図1).
肺炎球菌髄膜炎は早急な治療が必要なので,まず血液培養が採取され,その後直ちに抗菌薬治療が開始されています.髄液検査や頭部CTよりも治療優先ということがポイントですね.図2に,検査と治療の流れを示します.
研修医A でも,髄液検査の前に抗菌薬を使用してしまうと,後から塗抹培養の検査を行っても起因菌がわからなくなってしまうのではないでしょうか.
指導医 肺炎球菌髄膜炎では血液培養が50~75%程度で陽性となりますし,髄液の塗抹検鏡で菌体が確認できる確率は全体として90%とされています.また,抗菌薬投与の数時間後でも髄液培養は陽性になるといわれています.この患者の血液培養では,2セットのうち1セットで肺炎球菌が検出されました.また,髄液のGram染色ではGram陽性双球菌が確認されました(図3).しかし,培養は陰性でした.尿中肺炎球菌抗原検査も診断の補助になるでしょう.この患者でも来院時の尿で陽性でした.
なによりも,治療が遅れるのを防がなくてはなりません.髄腔に細菌が侵入すると増殖のスピードが急に速くなりますので,治療が30分でも遅れると,状態が進行性に悪化して予後不良となることがわかっています.
(つづきは本誌をご覧ください)