medicina 2011年11月号(増刊号)
「内科 疾患インストラクションガイド 何をどう説明するか」  書評


医療スタッフとの情報共有と,患者・家族への説明に

書評者:山口 徹(虎の門病院院長)

 医師の負担軽減が話題となっている。その原因として医師不足に議論が集中しているが,医師の負担増の背景には医学の急速な進歩,医療の専門分化という問題も存在している。高度に細分化された医療現場では,忙しい臨床に追われる医師にとって,自分の専門分野はともかく,他領域の進歩を学ぶことは容易ではない。しかし目前の患者は自分の専門外の問題を抱えていることも多く,説明を求められる機会は多かろう。専門書を紐解けばいいわけであろうが,その時間はないのが常である。また自らの医療についての患者への情報提供,インフォームド・コンセントにも,看護師などチーム医療のメンバーとの情報共有にも,時間が必要である。いくら時間があっても足りない。そのような内科診療の現場に備えておくとよい1冊がこの特集である。

 本増刊号は「患者に何をどう説明するか」のガイドブックである。「どのような病気でしょうか」「どのような検査をするのでしょうか」「どのような治療がありますか」「日常生活ではどのような注意が必要ですか」「急変した場合どうしたらよいでしょうか」という患者からの5つの質問に答える形でまとめられている。患者への説明サンプルとその背景にある病態や治療指針,ガイドラインに関するコンパクトな解説がある。要領を得ていて過不足がない。さらに,「COPDは“治り”ますか?」「どうしても透析だけはしたくないのですが…」「インスリン注射は嫌です」など,130を超える患者の訴えなどにも専門家の経験に基づく一口メモが添えられている。内科疾患が網羅されているが,日常診療で出合うことの多い精神疾患,運動器疾患,皮膚疾患などの関連分野も取り上げられている。患者とのコミュニケーション術に関する話も冒頭にあり,参考になる。

 本増刊号は,内科疾患の診療にかかわるすべての臨床医にとって役立つ手引きである。また看護師などのチーム医療のメンバーにとっても,医師と情報を共有し患者,家族へ説明するのに役立つものである。多忙な臨床の第一線で末永く活用されることを願っている。



うまくオーガナイズされた『medicina』増刊号

書評者:北原 光夫(農林中央金庫健康管理室室長)

 『medicina』2011年増刊号として,『内科 疾患インストラクションガイド――何をどう説明するか』が発刊された。

 『内科 疾患インストラクションガイド』(以下,ガイド)は2つのセクションに分かれており,初めのセクションは「患者にどう説明するか」とする4つの論文から成り立っており,次のセクションにはよく遭遇する内科的疾患が131,そのほかの疾患24と幅広く網羅されている。

 「患者にどう説明するか」として書かれた4編の論文は,読み応えのあるものとなっている。われわれ医療に携わる者にとって,コミュニケーションスキルの重要さは最近とみに高まっている。わずかなコミュニケーションのつまずきで大きな問題へと発展することを見ることもまれではない。また,ヘルス・リテラシーを考慮せずに,常に同じ調子の説明を行っても理解度に開きが出てしまうことも当然である。患者側からの信頼を得るためのセクションである。

 続いて疾患のセクションに焦点を当ててみると,一定のフォーマットにしたがって記載されているのに気が付く。

 フォーマットによる構成は,「どのような病気でしょうか」「どのような検査を受けるのでしょうか」「どのような治療がありますか」「日常生活ではどのような注意が必要ですか」「急変した場合どうしたらよいでしょうか」の5項目から成っていて,まさに患者と患者家族が特に知りたいエッセンスが含まれている。さらに一口メモ的なメッセージがところどころに散りばめられている。これには予防的なメモも含まれておりユニークなセクションである。

 内科の教科書に比べ,構成が当然異なるが,患者あるいは患者家族への対応という面を基本としたこのガイドは,『medicina』の読者,特に病院で診療に関わる医師にとっては有用である。また,医師がどのような説明を患者に行うかを知っておくべき看護師の目線に合うように平明に書かれているのも良いと思う。患者を紹介する実地医家が病院医と連携していく上でも使用しやすいガイドとなっている。

 うまくオーガナイズされた増刊号である。