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●内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応

第2回

不眠

中尾睦宏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学・心療内科)


 今回のテーマは不眠である。前回はうつ病についてまとめたが,内科医にとって不眠症はうつ病以上に頻繁に診療している病態である。例えば東大心療内科外来でCornell Medical Indexという質問紙を用いて身体症状の調査をしたところ1),初診患者で不眠を訴える者の割合は各年代で多少ばらつきがあるもの60%前後であった(表1)。患者だけでなく,一般国民にとっても不眠への対応は大切である。「健康日本21報告書」によると2),睡眠によって休養が十分に取れていない国民は23%で,眠るために睡眠補助品やアルコールを使っている国民は14%と推計されている。

表1 東大心療内科外来における主な身体症状(1994~98年,n=1,500)
年齢階級 第1位 第2位 第3位 第4位 第5位
10代以下 疲労
(58%)
嘔気
(45%)
不眠
(42%)
息切れ
(39%)
便秘
(27%)
20代 疲労
(68%)
不眠
(58%)
嘔気
(52%)
息切れ
(45%)
動悸
(32%)
30代 疲労
(70%)
不眠
(63%)
息切れ
(43%)
嘔気
(42%)
動悸
(35%)
40代 疲労
(72%)
不眠
(59%)
息切れ
(45%)
動悸
(39%)
頭痛
(36%)
50代 不眠
(61%)
疲労
(49%)
息切れ
(48%)
関節痛
(37%)
動悸
(31%)
60代 不眠
(68%)
疲労
(56%)
息切れ
(44%)
動悸
(33%)
関節痛
(31%)
70代以上 不眠
(59%)
疲労
(50%)
関節痛
(32%)
腰痛
(32%)
息切れ
(31%)

 このように不眠は身近な問題であるが,何らかの不眠症状を有している患者のうち実際に医師に相談して睡眠薬を服薬する例は20~25%程度といわれている3)。患者によっては,不眠に対する病識が乏しかったり,睡眠薬に対する誤解のため,服薬に抵抗感をもっているかもしれない。したがって日常診療においては,不眠が主訴でない場合でも,睡眠状況を確認して不眠症を見逃さないようにしたい。また不眠が認められたとしても,前回述べたようにその原因にうつ病などメンタルヘルスの問題が潜んでいないか評価する必要がある。

不眠の評価

 一口に不眠といっても,入眠困難(寝付きが悪い),熟眠感の欠如(ぐっすり眠れない),中途覚醒(夜中に目を覚ます),早朝覚醒(朝早く目が覚めた後に眠れない)といった症状がある。こうした不眠症状があれば,まずは何か基礎疾患や不眠を誘発する原因がないか,鑑別しなくてはならない。俗に「5P」と呼ばれる分類が覚えやすい(表2)。原因疾患によっては,睡眠薬が無効であったり,かえって不眠症状を悪化させる場合もあるので注意が必要である。例えば,最近話題となっている睡眠時無呼吸症候群だと,耳鼻咽喉科的治療が必要なときがあり,筋弛緩作用の強い睡眠薬を用いると上気道の閉塞をさらに促す可能性がある。睡眠薬がどうしても必要な場合は,催眠作用に関連したω1受容体への選択性が高い薬剤(例えば,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)などを処方すれば良いであろう4)

表2 不眠の原因(5P)
身体疾患に伴う不眠(Physical)
   中枢神経系疾患(Parkinson病など),脳器質性疾患(脳梗塞など),循環器疾患(不整脈など),呼吸器疾患(気管支喘息など),消化器疾患(逆流性食道炎など),皮膚疾患(アトピー性皮膚炎など),など
生理学的不眠(Physiologic)
   時差ボケ,入院,交代勤務,不適切な睡眠環境,など
心理学的不眠(Psychologic)
   精神的ストレス,恐怖体験,死別などの喪失体験,など
精神疾患にともなう不眠(Psychiatric)
   うつ病,統合失調症,など
薬理学的な不眠(Pharmacologic)
   アルコール,向精神薬,インターフェロン,降圧薬,など

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)中尾睦宏,久保木富房:ハーバード大学医学部心身医学研究所の行動医学的ストレスマネージメントプログラムに参加する身体不定愁訴患者の臨床的特徴;東京大学医学部心療内科外来データベースとの比較。行動医学研究 9:1-8, 2003
2)多田羅浩三(編):健康日本21推進ガイドライン.ぎょうせい,2001
3)Doi Y, Minowa M, Okawa M, et al:Prevalence of sleep disturbance and hypnotic medication use in relation to sociodemographic factors in the general Japanese adult population. J Epidemiol 10:79-86, 2000
4)中尾睦宏,野村恭子:心療内科における薬物療法update;睡眠薬. 心療内科 10:71-77, 2006
5)中尾睦宏:リラクセーション反応と心身の健康.からだの科学 236:30-33, 2004
6)内山真(編):睡眠障害の対応と治療ガイドライン.じほう,2002


中尾睦宏
1990年東京大学医学部卒業。東大病院で内科研修をして心療内科に入局。1996年に東京大学医学系大学院(心身医学)修了。2000年にハーバード大学公衆衛生大学院(臨床疫学)修了,ハーバード大学医学部心身医学研究所内科講師。2001年に帰国し,現在,帝京大学医学部衛生学公衆衛生学助教授・附属病院心療内科副科長。専門は心身医学,行動医学,職場のメンタルヘルスなど。