HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻5号(2007年5月号) > 連載●外来研修医教育への招待
●外来研修医教育への招待

第5回

こんな場合はどうする?
その1

大和康彦(自治医科大学附属大宮医療センター 総合診療科)
川尻宏昭(名古屋大学医学部附属病院 在宅管理医療部 地域医療センター)


 いよいよ春になり,私たちの病院にも多くの初期研修医が入ってくる時期になりました。医師国家試験に合格し,そのために修得?した知識は豊富で妙な自信をもち,やる気に満ち溢れている研修医。臨床の場でガチガチに緊張している研修医。全く学生気分の抜けない研修医……。後輩ができ,しっかりしてきたように見える2年目研修医。そんな研修医たちを,時に温かく,時に厳しく見守っているコメディカルスタッフ。また「新人が入って1から教えるのは大変」とかなり憂うつ?な指導医。

 私たちの病院では,総合外来研修を初期研修医1年目の初めより開始しており,研修医教育の重要な柱の1つとして捉えています。これまでの4回では,研修医が外来研修を行う意義や目的,成人学習・教育として実践の場で役に立つと思われる考え方や手法,そして私たちの病院で行っている外来研修の実際的な方法についてお話ししてきました。今回から数回にわたり,前回お話した外来研修の実際的な方法を,いくつかのケースにあてはめ,「軸」というキーワードを意識しつつ,御紹介してゆきたいと思います。

参考1 佐久総合病院での実際的な流れ
(1)予診用紙を研修医と一緒に見て,ショートディスカッション(どこまで任せるか,必要な医療面接・身体診察項目,必要な時間など)
(2)診察後の研修医プレゼンテーション〔One minutes teacher(改変版)を意識して行う〕
(3)次の一手を検討する
(4)一緒に診察室へ
(5)外来後の振り返りカンファレンス


ケース
予診用紙:60歳男性。Mさん。
主訴…朝から頭痛。
既往歴…高血圧(未治療)。
希望の検査…特になし。


【例1】

研修医A:主訴は頭痛か。歩いて来ているようだし片頭痛かなんかだろう。まあとりあえず診察してくるか。

***

研修医A:こんにちは。はじめまして,研修医Aといいます。Mさんですね。よろしくお願いします。今日は頭痛で来られたのですね。どのような頭痛ですか?
患者:(頭を抱えながら歩いて診察室へ)今朝突然痛くなって。今まで経験したことのないような痛みで,少しずつ悪くなってくるようです。
研修医A:そうですか。(あれも聞かないと,これも聞かないと……30分経過)
患者:先生,頭がまた痛くなってきたんですけど,何とかなりませんか? (不安の表情)
研修医A:すみません。それでは診察します。(あの所見とって,この所見とって……さらに30分経過)
患者:まだ診察ですか? もう耐えられないほど痛くなってきたんですけど(かなり不安の表情)。
研修医A:そうですね。それでは,とりあえず血液検査に行ってきてください。あと頭部CT検査もしておきましょう。髄液検査や脳波はどうするかな……。(鑑別はよくわからないけど,とりあえず多く検査しておけば何か原因はわかるだろう。)
患者:(頭を抱えながらなんとか歩いて診察室から出ていく……ここまで1時間)

***

研修医A:疲れたなー。1時間かけて所見とりながらカルテもきれいに書けたし完璧だな。結果出たら指導医に報告でいいや。さあ一息いれてから,次の患者診るかな。
CT室より連絡:先生大変です。大至急来てください。くも膜下出血があって,患者さんの意識も悪くなっています!!
研修医A:えっ! そんな!(背中に冷たい嫌な汗が……)
指導医Z:何,研修医Aがくも膜下出血患者を1時間もかけてのんびり見てただとぉ!! なんで早く知らせないんだよ……。

 今回のケースは,普通に歩いて受診された頭痛の60歳男性です。頭痛はcommon problemであり,みなさんの外来でも,よく遭遇するケースだと思います。このケース,いかがですか? 今回の症例では,研修医が時間をかけて丁寧?に診察し,カルテも書き,検査を組むことで,一応くも膜下出血の診断に至りました。この流れはいかがでしょうか? 指導医の皆さんのなかには,「もう,本当に困るな。このケースは,まず,少しお話を聞いたらすぐCTでしょ。だって,まずルールアウトしないといけないのはくも膜下出血だよね。なんでそれがわからないのかな?」と思われた方もいるのではないでしょうか? そのような指導医としての思いを,どのように研修医に伝えていけばいいのでしょうか? また,同時にどのようにして,研修医とともに診ていく患者さんの診療の質を確保していくといいのでしょうか?

 同じ症例ですが,次のような流れはいかがでしょうか? 例1と対比させながら,指導医として,どのようなアプローチをすればいいのか,一緒に考えていきましょう。。。

(つづきは本誌をご覧ください)


大和康彦
2000年杏林大学医学部卒。同年佐久総合病院初期研修医。2年間の初期研修終了後,3年間の総合診療科後期研修を行い,一般内科研修のみならずリハビリテーション研修や診療所研修を行う。2005年より総合診療科スタッフとして診療と研修医教育に関わりながら,院内脳卒中チームや在宅訪問診療も行っている。2007年4月より現職。

川尻宏昭
1994年徳島大学医学部卒。同年,佐久総合病院初期研修医。2年間のスーパーローテーションおよび2年間の内科研修の後,病院附属の診療所(有床)にて2年間勤務。2001年10月より半年間,名古屋大学総合診療部にて院外研修。その後,佐久総合病院総合診療科医長として,診療と研修医教育に従事。2006年12月より現職。