HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻3号(2007年3月号) > 連載●外来研修医教育への招待
●外来研修医教育への招待

第3回

研修医とともに外来を
ちょっとその前に(前編)

川尻宏昭(名古屋大学医学部附属病院・在宅管理医療部 地域医療センター)


 このシリーズも第3回目となりました。今回は,前回に引き続き,外来で研修医とともに勉強をするときに役に立つ教育技法について,皆さんと一緒に勉強してみたいと思います。前回は,成人学習の原則,臨床教育技法の7つのポイントを中心にお話ししました。そのなかで,「研修医(学習者)が今どのような状況にいるか=学習者診断」と「評価(特に形成的評価=フィードバック)」の2点が大切であるということをお伝えしました。今回,後編として,「外来研修における指導医の役目」ということを念頭に置きながら,実践的な教育技法について,ご紹介したいと思います。「外来研修……」としていますが,外来に限らず病棟でも応用できるのではないかと思います。できるだけ,実践に即した形でのお話をしたいと思っていますが,皆さんも,外来で研修医とあるいは病棟で研修医と行動していることを想像しながら,一緒に勉強していただければ幸いです。


外来研修における指導医の役目

 研修医の外来研修を指導することは,指導医にとって大変ストレスなことです。私たち指導医にとって,「外来で研修医を指導してください」と言われると,「えー,すごく大変だな」と感じない方はないのではないかと思います。ここで質問ですが,「何がいったい大変にしているのでしょうか?」つまり,私たちが感じるストレスの原因は,いったい何なのでしょうか? ここには,皆さんに共通する原因からおのおのの施設の違い,あるいは個人的要因まで,さまざまなものがあると思います。これらの一つひとつについて検討をする必要がありますが,今回は特に,おそらく皆さんが共通して感じていることについて,考えてみようと思います。

 まず,実際の外来を思い浮かべてみましょう。そこでは,指導医は,研修医の指導だけでなく,自らの患者さんも診ながら,研修医の指導もしているというのが現実ではないでしょうか? そんななかで指導医は,(1)研修医の指導,(2)研修医が診ている患者さんの診療の質への配慮,(3)周囲のスタッフへの配慮,(4)自分の担当患者さんへの配慮,と一度に多くのことを並行して行わなければいけません。この状況は,大変なストレスです。さらに,第1回目でもお話したように「時間」というファクターがそこに入ってきます。もう,こうなると指導医はパニックです。つまり,「同時に多方面への注意を払う必要がある」ということと「時間に追われる」ということが,指導医の役目から生じる指導医のストレスの大きな要因ではないかと思います。そんな状況でも,少しでも,うまく,患者さんにも研修医にも対応できる方法はないでしょうか?

 そこで,ひとつの教育技法をご紹介したいと思います(表1)。

表1 One minute teacher(six micro skills)(文献5より)
(1)学習者に評価・計画を述べさせる(get a commitment)
(2)それを指示する根拠を確認する(probe for supporting evidence)
(3)原則を教える(teach general rules)
(4)よかった点をほめる(reinforce what was right)
(5)間違いを正す(correct mistakes)
(6)次に学ぶことを見つける(identify next learning steps)

 これは,もともと,米国の家庭医療専門医の雑誌に掲載された教育技法で,オリジナルはfive steps(表1(1)~(5))でした。少ない時間のなかで,外来で研修医とともに勉強および診療をしていくためのひとつの技法です。これを研修医にあてはめると,まず,研修医に,自分が診察した患者さんのアセスメント&プランを述べさせ,その後,「なぜそう考えたのか?」という根拠を確かめます。それに対して,それまでの研修医の思考過程あるいは根拠となった知識等についての,一般的な原則(事項)を教えます。次に,うまくできていたことについては,評価します(ほめる)。最後に,「この点についてはこうしたほうがいい」というように間違いを指摘して,「だから次はこれに注意するといいね」というような方向を示していきます。

 このオリジナルを,名古屋大学総合診療部の伴信太郎先生が,指導医の役目を意識されて改変されたものがあります。この伴先生改変版は,その目的が実感でき,なおかつ非常に実践的です。表2でそれを紹介します。

表2 6つの技法(伴信太郎氏改変版)
(1)ケースの提示(患者さん)
(2)研修医の考えを聞く(研修医)
(3)考えの根拠を聞く(研修医)
(4)追加の質問をする(患者さん)
(5)一般論・基本事項の説明をする(研修医)
(6)評価をする(できている点をほめ,間違いを正す)

 このポイントは...

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)伴信太郎・他(訳):臨床の場で効果的に教える-「教育」というコミュニケーション,南山堂,2002
2)大西弘高:新医学教育学入門-教育者中心から学習者中心へ,医学書院,2005
3)日本医学教育学会臨床能力教育委員会:研修指導スキルの学び方・教え方-病棟・外来で使える,南山堂,2006
4)伴信太郎:プライマリ・ケア実践のための臨床教育-指導医と医学生・研修医への道しるべ,エルゼビア・ジャパン,2004
5)Neher JO, et al:A five-step “microskills” model of clinical teaching. J Am Board Fam Pract 5:419-424,1992


川尻宏昭
1994年徳島大学医学部卒。同年,佐久総合病院初期研修医。2年間のスーパーローテーションおよび2年間の内科研修の後,病院附属の診療所(有床)にて2年間勤務。2001年10月より半年間,名古屋大学総合診療部にて院外研修。その後,佐久総合病院総合診療科医長として,診療と研修医教育に従事。2006年12月より現職。