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●「デキル!」と言わせる コンサルテーション

第1回テーマ

コンサルテーションについて考えてみよう

川畑雅照(虎の門病院 呼吸器科 医学教育部)


初期研修の病棟でのコンサルテーションの一場面
指導医 「さっきの入院患者,よくわからないからコンサルトだ!よろしく!」
(そう言い放ち,忙しそうに病棟から立ち去った)
研修医 「わかりました!」
(返事した瞬間,その研修医は消化器内科医のポケットベルをコールしていた)
研修医 「今日の入院患者が,お腹が痛いって言ってるんで診てください。ついでに上部の内視鏡もやってほしいし,治療方針も教えてください!」
専門医 「この前も言ったが,何だ,そのコンサルトは!もう,おまえの相談は受けんぞ!」
“ガチャッ!ツー,ツー……”
研修医 「・・・」
(怒鳴られた理由もわからず,立ちつくしていた……)

 さて,なぜこの研修医は怒鳴られたのでしょうか? 専門医が忙しい外来の最中だったから? そうかもしれません。いきなり診に来いという言い方が少し失礼だったから? その可能性もあるでしょう。しかし,それだけではありません。そもそも,この研修医の相談は,コンサルテーションとは言えないところが問題であることに,彼は気付いていないようです。この研修医は,日々の病棟業務の忙しさあまりか指導医の“言う通りに動くぞマシーン”と化し,一呼吸おいて考えることを忘れてしまったようです。

 そこで,連載第一回目の今回は,この不憫な研修医のためにも,診療の現場における他科の医師へのコンサルテーションとは何かについて,少し議論してみたいと思います。

診療の場面におけるコンサルテーションとは

 “主治医”という言葉は,使用される場面によって重さの異なる言葉ではありますが,川越らはプライマリケアの観点から「疾患の種類によらず心身各部の診療の求めに応じ,継続して患者さんの生命と生活に責任を持ち続ける医師」と定義しています1)。多くの臨床医は主治医として患者さんに頼りにされる存在だと思いますが,主治医として患者さんの心身の問題について責任を果たそうと思っても,その医師だけで解決できない問題に遭遇することも少なくありません。医師は万能ではないし,一人の医師の診療能力や技術には,自ずと限界があります。そこで,他の医師に治療について相談したり委ねたりするコンサルテーションが必要となるのです。

 診療の現場におけるコンサルテーションについて,このシリーズでは「主治医が対処に困った患者さんの問題について,専門家や経験の豊かな医師に意見を聞いたり,診療を委ねたりして,より質の高い医療を提供するための一連の手続き」と定義したうえで,議論を進めたいと思います。

 コンサルテーションは,単に専門医に意見を聞いたり患者を委ねたりすることではありません。すでにおわかりかと思いますが,冒頭の研修医の対応は決してコンサルテーションと言えるような内容ではありません。コンサルテーションのことを日本語で「対診」ということもありますが,相談する主治医と相談を受ける専門医が,向かい合って議論しながら目の前の患者さんの問題点を解決するという,コンサルテーションの本質をズバリと言い得ているのではないかと思います。

 コンサルテーションの最終的な到達点としては,主治医としての視点から患者さんの診断治療方針について専門医と対等にディスカッションでき,患者さんに質の高い診療を提供できるということです。

コンサルテーションは診療技能

 日野原重明先生流に言うと「コンサルテーションは,アートである」と言えるでしょう。これまで,あまり強調されていなかったことですが,コンサルテーションも,身体所見をとったり,中心静脈を穿刺したりするのと同様に診療技能の一つだと思います。

 最近,患者さんに対する接し方や話し方などについては,“コミュニケーション技法”ということで,技術的に習得すべき大切な研修項目であることが認知されるに至り,多くの出版物が書店に並ぶようになりました。しかし,同じ医師あるいは医療関係者どうしの大切なコミュニケーションの一つである“コンサルテーション技法”については,今までほとんど語られていませんでした。実際,今回の執筆に当たって手元にある何冊かのコミュニケーション技法に関する教科書をひも解いてみましたが,残念ながら,どの教科書にも全くといってよいくらいページが割かれていませんでした。

 コンサルテーションも一つの診療技能である以上,医師によって個人差はあっても,方法と手順に一定の原則とコツがあります。他の技能と同様に,研修医のうちから,指導医から教わりながら(あるいは,盗みながら)トレーニングすることによって,誰にでも上手に習得できるはずです。そして,これを習得すべき技能だと思って訓練した研修医と,そうでない研修医との間には,大きな技術的な格差が生じてしまうのも当然だと思います。新しく必修化された初期研修における臨床研修の到達目標には,「医療人として必要な基本姿勢・態度」という大項目内の「チーム医療」のなかに「指導医や専門医に適切なタイミングでコンサルテーションができる」という項目があります。特に初期研修医においては,コンサルテーション技能習得についても一つの到達目標としてとらえていただきたいと思います。

コンサルテーションは総合的技能

 次回から詳しく解説しますが,コンサルテーションはいくつもの基本的技能の統合のうえに成り立つものです。コンサルテーションに必要とされる基本的な臨床技能は,診断や重症度評価の技能のみならず,情報収集の技能,プレゼンテーションやコミュニケーションの技能など多岐にわたります。コンサルテーションは,手先が器用でちょっとコツがわかれば上手にできるような類のものではありませんし,そういう意味では習得するにあたって難易度の高い技能といえるかもしれません。

 また,コンサルテーションの技能は,診療のフィールドが変われば,その内容が大きく変わるという側面をもっています。このことは,総合病院で研修医が行うコンサルテーションと診療所の外来を中心に働く医師のコンサルテーションの内容が大きく異なることで,容易に理解できると思います。すなわち,コンサルテーションは,初期研修の期間に勉強して習得できれば終了,というものではないのです。すべての臨床医が,生涯教育として常にその診療分野のup to dateの知識を身に付けておくのと同様に,コンサルテーションの技能も医師として働き続ける限り,常に磨いておくべき技能なのです。

「デキル!」と言われるコンサルテーションのために

 上手にコンサルテーションできる医師は,必ずやコンサルタントから「こいつは,デキル!」と言われます。そして,さらに多くのことを学ぶチャンスに恵まれるものなのです。

 この連載では,どのレジデントマニュアルにも書かれていなかったコンサルテーションの方法論についてやさしく技術論的に解説します。まずは初期研修医の誰でもが簡単に実践できるコツを中心に紹介し,さらに診療科別のポイントやフィールドの違いによるコンサルテーションの違いについても解説していきたいと思っています。

 初期研修でコンサルテーション技能について学ぶ機会がなかったという方も,上述したようにコンサルテーションの技能は総合的技能ですから,すでに完成した個々の基本技能を上手に組み合わせるだけですばらしいコンサルテーションができるようになると思います。これから始まる本シリーズを眺めながら,ちょっとしたコツがわかれば大きく上達するのではないでしょうか。

 本連載により皆さんのコンサルテーションに対する考え方が少しでも変わって,患者さんにとってよりよい医療が提供できるようになればと思っています。

1) 川越正平,他:君はどんな医師になりたいのか-「主治医」を目指して,医学書院,2002


川畑 雅照
1992年鹿児島大学医学部卒。虎の門病院内科ジュニアおよびシニア・レジデントを経て,97年より同院呼吸器科,2002-03年ニューヨーク州立大学へ留学。現在,虎の門病院呼吸器科および医学教育部に所属する。著書に,『レジデント臨床基本技能イラストレイテッド』,『総合外来初診の心得21カ条』,『君はどんな医師になりたいか』(いずれも共編著,医学書院刊)などがある。