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JIM 2013年12月号(23巻12号)Editorial

Quick Assessment シマウマ探しはするな!

山中 克郎(藤田保健衛生大学救急総合内科)


 宮城征四郎先生のケースカンファレンスに参加させていただいた時,宮城先生が何度も強調されていたことは「Quick Assessment シマウマ探しはするな!」であった.「医者が一生に一度出会うかどうかの珍しい疾患ばかりを学習しても役に立たない.頻繁に出会う疾患を適切かつ迅速に診断し,治療を行うことが大切である」という教えであった.

 私たち医師はゆっくり考えて決断することは少ない.サッカー選手のように常に動き回りながら,瞬時に最善と思われる決断を下していくのである.いろいろな方向から押し寄せる敵に細心の注意を払い,味方プレーヤーの位置を確かめ,パスを出すタイミングを走りながら考えているのである.ベテラン医師や専門医は直感で適切な診断や治療をすることが多い.熟考より反射的な判断が臨床では重要だ.次から次に押し寄せる患者さんへの対応のため,私たちには時間がないのだ.

 マルコム・グラッドウェルは著書『第一感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』で,理屈ではなく直感により一気に結論に達する脳の働きを「適応性無意識」と呼んでいる.学校の試験で迷いに迷ったあげく,間違った答えを選んだ経験は誰にでもあるだろう.予備校では最初に思いついた答えを選ぶように勧めている.それは正しい.熟考すればするほど間違った答えを選んでしまうのである.ベテランナースの「あの患者さん,何となく様子がおかしい」という直感はたいていの場合,急変を正確に予見する.

 そこで今回は,安城更生病院の救命救急センターで活躍している寺西智史先生の力を借りて,一般外来と救急外来における基本的臨床能力をチェックする企画を考えた.救急での対処はとくに迅速な決断を迫られることが多い.救急とは一見無関係に思われる診療所でも,突然の胸痛や片麻痺,呼吸困難など救急疾患への適切な初期対応は求められる.近年ではエビデンスに基づいたガイドラインがたくさん出ているため,専門外でもガイドラインに沿った医療を行わなければ,その医師はスタンダードな治療を行わなかったと判断される.

 宮城先生にお会いしてから,私の財布の中にはいつも先生の名刺がある.基本の大切さを医学生や若手医師に何度も繰り返し伝えていくことが重要という,宮城先生の教育者としての姿勢に深く感銘を受けた.「適応性無意識」はトレーニングで鍛えることが可能である.瞬時に正しい判断をする能力を養えば,臨床経験の少ない若手医師もベテラン医師並みの臨床能力をもつことができるだろう.

小さいことを積み重ねることが,とんでもないところへ行くただひとつの道だ.(イチロー)

 自ら問題を作成しながら,正しく理解していない領域がたくさんあることに気がついた.学習者は勉強を続けると,プラトーと呼ばれる学習効果がなかなか上がらない時期を経験する.その時期においても学ぶ楽しみを見つけながら,コツコツと地道な努力を続けること以外に,達人の域に達する方法はない.