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JIM 2013年11月号(23巻11号)Editorial

アルコール関連問題の新展開

伴 信太郎(名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻総合診療医学)


 アルコールは予防可能な死亡原因として,米国では,たばこ,肥満 に次いで3番目に位置づけられている1).肥満が米国のような問題とはならない日本では,2番目に位置づけられるであろう.しかし,禁煙指導に比して断酒・節酒指導に関しての臨床能力の獲得はきわめてお寒いのが現状である.その理由を考えてみると,大きく3つのことが挙げられると思う.

 一つ目は,たばこが『百害あって一利なし』であるのに対して,アルコールは『百薬の長』という側面もあるということである.すなわち,たばこは喫っているというだけで禁煙指導の対象となるが,アルコールはどの段階から断酒・節酒指導の対象となるかが必ずしもはっきりしない.したがってスクリーニング法をよく知っていないと,次の段階の指導に入れない.スクリーニングをするかどうかは,その頻度(外来を受診する男性の10人に1人はアルコールが健康障害の原因!)についての認識がないと,スクリーニング法を知っていても宝の持ち腐れになることは,われわれの研究からも明らかであった2)

 二つ目の理由は,アルコール依存症というアルコール関連問題の究極の病態が,アルコール問題の専門家の診療対象となっていて,一つの専門領域を形成してきたために,他の領域の医師がアルコール関連問題の診療に参入しにくかったということが挙げられよう.

 三つ目は,日本における総合診療医の専門性の未発達である.総合診療が一つの専門領域を形成している国々では,アルコール関連問題は総合診療専門医の研究・診療・教育の対象となっている場合が多い.アルコール関連問題は保健医療セクターだけでは対応できず,日本の行政区分でいうと運輸,法務,経済産業,財務,農林,文部などの各セクターや市民社会,アルコール関連業者などとの連携も重要であり,このような活動は総合診療医がその真骨頂を発揮できるところである.

 昨年来「アルコール健康障害対策基本法」の制定に向けた動きが活発になってきているが3),今年に入って総合診療専門医が基本領域の専門医の1つとして位置づけられるという方向性が固まり,2013年が日本におけるアルコール関連問題対策の一大転換期となる可能性がある.ぜひこの機会を逃さずに,日本の医療のさらなる改善につなげたいものである.

1) Jonas DE, et al:Behavioral counseling after screening for alcohol misuse in primary care;A systematic review and meta-analysis for the U.S. Preventive Services Task Force. Ann Intern Med 57:645-654, 2012.
2) Kitamura K, Ban N, et al:Recognition of alcohol-related problems by primary care physicians in Japan. Jpn J Prim Care 24:104-110, 2001.
3) アルコール関連問題基本法推進ネット(アル法ネット):www.alhonet.jp