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JIM 2013年10月号(23巻10号)Editorial

シルバー仕様を標準に!

木村 琢磨(北里大学医学部総合診療医学)


 今は優先席という呼び名に変わったが,かつて電車やバスには“シルバーシート”という「高齢者に譲るべき席」があった.名前はどちらにせよ,このような席があると,その席に座る資格がないことを自覚して座ることを躊躇したり,もし座っていても,高齢者などへ席を譲ることを促す効果があると考えられる.高齢者への特別な配慮といえるが,今後も有効に機能するものであろうか.

 言うまでもなく,今後,わが国では高齢者の増加に拍車がかかる.そして,電車やバスに乗る高齢者も増え,「これは“高齢者専用車両”か!?」と見間違う日が来るのも近いのではなかろうか.その際,優先席が足りなくなることは自明である.また最近では,「前期高齢者が後期高齢者へ席を譲る光景」をみることも少なくない.これを傍目に,“ふんぞり返っている”若者たちの意識を高めるためにも,これからは 「全席を優先席にして,一部の席のみを誰もが着席が可能な“非優先席”とするしか方法はない」とすら思うのである.

 いずれにせよ,そもそも,世の中では,いまだ,高齢者への配慮が特別視されていることが問題であろう.たとえば,「この本は文字を大きくしてあります」「この携帯電話は使いやすい○○ホンです」「お年寄りも楽しめるテレビの懐メロ番組」などである.これからの時代は,初めから高齢者へ十二分に配慮された,いわば,“シルバー仕様が標準”という発想が求められているように思う.先ほどの例で言えば,「大きい文字の書籍」「シンプルな携帯電話」「高齢者が観て楽しい番組内容」などを標準とし,「希望で字を小さくする」「多機能ホン“も”あります」「“今日は”アイドル番組」など,非高齢者向けを特別扱いとするのである.

 さて,臨床医学はどうであろう.同じように,「高齢者だから○○」と,高齢者への配慮を特別視している感があり,“シルバー仕様が標準”という発想は,いまだ多くない現状ではなかろうか.これからの超高齢社会においては,“シルバー仕様が標準”の臨床が必要であることは言うまでもない.とくに,高齢者の主治医になることが,今後ますます多くなるジェネラリストには強く求められよう.

 そこで,本号では,“高齢者「主治医」事典”と題して,臨床現場で“シルバー仕様が標準”の臨床を実践しておられる先生方に「高齢者への理解」「高齢者の生活」「多死社会と主治医」「高齢者看護・介護のトピックス」についてご執筆をいただいた.これからの世の中は,高齢者が標準で,むしろそれ以外の世代が特別となることは間違いない.今こそ,「シルバー仕様を標準に!」を合い言葉に,臨床,ひいては世の中における高齢者への配慮が,特別ではなく,標準となる日が来ることを強く望み,本特集がその起爆剤となれば幸いである.