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JIM 2012年2月号(22巻2号)Editorial

総合的な病態の捉え方

伴 信太郎 (名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻総合診療医学)


 総合診療医の真骨頂は総合的な‘ものの見方’をすることです.(1)「身体・精神心理・社会環境・自然環境」(2)「予防・診断・治療・リハビリテーション」(3)「保健・医療・福祉・介護」,(4)「個人・家族・職場や学校・地域」などの複合的な視点から病態を洞察することです.これらの視点とは異なり,病態の時間経過に沿って多面的な見方をする視点に(5)「3P理論」があります(4P理論もありますが,ここではよりわかりやすく3Pを考えます).

 3Pとは,病態を考える時に「predisposing factor素因」,「precipitating factor誘因」,「perpetuating factor増悪因」の3つの要因を考慮するという‘ものの見方’です.とくに,症状が慢性化している場合には,この3つのいずれもが,大なり小なり,程度の差はあれ関与していることが多いことを経験的に痛感します.逆に言うと,いずれか単独では慢性化することは少ないとも言えます.

 まず,素因となるのは,身体的なもの(例:遺伝的なアトピー体質)もありますが,精神心理的なもの(例:神経質な性格)もあります.素因は個人的な要因です.

 誘因には個人的な要因の他に環境的な要因も考慮する必要があります.個人的な要因としては,身体的なもの(例:高齢者に対する過剰輸液による心不全)や精神心理的なもの(例:失恋して抑鬱的になる)などが挙げられますが,社会環境的なもの(例:カビの生えやすい生活環境のような身体に影響するものや,嫁姑関係にストレスが多いといった場合のように精神心理に影響するもの)や自然環境によるもの(例:高地での活動を余儀なくされる)なども考慮する必要があります.

 増悪因も個人的なものと環境的ものを考慮する必要があります.個人的な要因としては,身体的なもの(例:十分な身体活動を怠って廃用症候群をきたす)のほか,精神心理的なもの(例:孤独な生活環境における不安感)に配慮が必要です.また,環境的なものには社会環境的なもの(例:アルコール依存症の患者さんの家族がイネイブラーになっている)と自然環境的なもの(例:寒冷環境で血行が不良となって病態の悪化を招く)などが挙げられます.

 このような3Pの側面と(1)~(4)の多様な側面を何時も考慮に入れて,どのようなサポートが可能か考えることが総合診療医の腕の見せ所といえるでしょう.

 素因があっても他の2つの要因がなければ慢性的な病態に至らない例としては,本態性高血圧症が挙げられます.誘因となる塩分摂取を厳しく制限すれば高血圧の招来を防ぐことが可能です.素因がなければ,かなりの塩分摂取をしていても高血圧は来しません.

 素因は現代医学ではいまだコントロールは困難ですが,素因があるかどうかを知ることは,誘因と増悪因に十分な注意を払う必要があることに警鐘を鳴らす意味で大切です.