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JIM 2011年10月号(21巻10号)

ガールズ・グループ

松村 真司(松村医院)


 いつの時代もアイドルはいるものだが,とくに最近,ガールズ・グループに注目が集まっているようである.近頃は性別にかかわらず1グループの単位が大人数にふくれあがっているのだが,5人や7人ならともかく数十人単位のグループになると,そのなかのメンバーを見分けることは,私にとって骨髄塗末標本の腫瘍細胞を見分けるのと同じくらい難しいことである.自分が思春期だったころは,当時人気のアイドル・グループのメンバーを,「皆,同じ顔に見える」と揶揄する年配者のことを小馬鹿にしていたものだが,年月を経て自分も同じ地平線にたどり着いた,ということなのだろう.人間という輩は,世代などと関係なく,本質的な違いはさほどない.ノー・フューチャーと叫んだロッカーは,初めから夭折する運命にあった,そんな気にもなる.

 それはともかく,大人数で一斉に歌い踊っているところを見ていると,さすがに迫力がある.小さな劇場で彼女らのパフォーマンスを目の当たりにしたら,個々の質はともかく,全体としてはさぞ華やかに違いない.多くの人が夢中になるのも頷ける.最近では韓国からのグループも活躍しているようだ.英米には同様のグループはそれほど見かけないようなので,このあたりを対比させつつ論じるのは,比較文化的に興味深いことかもしれないが,まあエンターテイメントとしてそれなりに成り立っているのであれば,私たちは単純に楽しめばよいのだろう.

 さすがに大勢で現れることはないが,私たちの外来にもこの年代の女子が訪れることはまれではない.とくに,ヒトパピローマ・ウイルス(HPV)ワクチンの公費接種が開始されて以降,ちょっと前までは小さかった近所の女の子が,すっかり大きくなって来院する機会が多くなった.そんな久しぶりの機会をとらえ,その年代の思春期女子の健康問題に対して,今よりも一歩前へ出た診療ができるようになればいいな,と考えたのが,今回の特集を企画したきっかけである.DV,不登校,若年妊娠,という,私たちにとっては少々重たい問題から,めまい/立ちくらみ,体重の問題,スキントラブルといった外来でよく出会う問題に対して,適切な初期対応とコンサルテーションができるように本特集を活用していただければ幸いである.

 現在,発育過程にある彼女らを取り巻く環境は,アイドル・グループの構成人数が数名から大人数へと変わったのとは比べものにならないくらい大きな変化のなかにいる.携帯やネットを通じた人間関係の変化,経済環境の悪化と価値観の揺らぎ,そして放射線…体も心も成長している過程のなかにいる彼女たちの健康に対し,私たちはどのように関わっていけばよいのか.彼女たちが成長し,そして次の社会をつくっていくこれからの10年は,老いていく私たちの10年とはまったく違う意味をもつ.

 彼女たちを守ることは,未来に対して私たちに課せられた大いなる責任である.