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JIM 2011年3月号(21巻3号)

医師に求められる一般教養を再考する

福井 次矢(聖路加国際病院)


 L. ArnoldやD. Sternらの言う医師のプロフェッショナリズムの4項目,Excellence(絶え間ない向上心),Humanism(患者の考え・価値観の理解と表出),Altruism(患者優先),Accountability(説明責任)からも明らかなように,医師には自発的かつ自律的な生涯にわたる学習が求められる.医師が学ぶべき領域について,最近考えるところがあり,本号の特集に至った.

 臨床医に求められる学習領域を二つに分けることができ,一つはComponent Learning(要素の学習)で,もう一つがSystems-based Learning(組織の学習)である.最初のComponent Learningとは,患者のニーズを知る,最新の正しい医学知識・EBMを身につける,特定の身体所見や検査の解釈ができる,治療を選択し,実際に診断手技や治療手技ができる,などであり,いわば一人の医師で完結するものである.

 一方の,Systems-based Learningは,システムが「複数の要素が有機的に関係しあい,全体としてまとまった機能を発揮している,要素の集合体」という言葉からもわかるように,上記の「要素」間の関係,病院内の手順・コミュニケーション,新たな知識や技術の普及,フィードバックと改善・ホーソン効果,規則やガイドライン・インセンティブ,組織に求められる個人の行動原則(可視化,単純化,標準化,フールプルーフ,フェールセイフ)などを意味する.

 これまでの医学教育では,Component Learningに比べて,Systems-based Learningの視点が無視されることが多く,一人ひとりの医学生や医師の学習意欲(動機)も弱かったように思われる.米国の卒後臨床研修プログラムの認定組織であるACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)が,Outcome Modulesとして提唱する6項目(①さまざまな医療提供体制のなかで効果的に働く─work effectively in various systems,②当該医療提供体制のなかで患者ケアを調整する─coordinate patient care within the system,③個別の,あるいは集団の患者ケアにおいて,コストを意識する─incorporate cost awareness,④質の高い患者ケア,適切な患者ケア体制を推進する─advocate quality patient care,⑤多職種からなるチームで働く─work in inter-professional teams,⑥)体制の誤りを見出し,それに対する解決策を実行する─identify system error)は,今後のSystems-based Learningを考えるうえで参考になる.