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JIM 2011年2月号(21巻2号)

精神疾患と誤診してはならない器質的疾患

伴 信太郎(名古屋大学医学部附属病院総合診療科)


 ジェネラリストは全人的医療を旨とし,器質的疾患のみならず精神疾患(心因性の反応を含め)にもアプローチすることが求められています.また,ジェネラリストはdiagnosticianとして,MUS(medically unexplained symptoms)にアプローチする専門家でもあります.そのMUSの10~15%が器質的疾患であるといわれています.

 私たち(私だけかもしれませんが)は,自分の知識や経験で説明のつかない病態について,精神疾患の一種ではないか,心因性の反応ではないかと考えがちです.この推論プロセスでは,非典型的病態やまれな器質的疾患を精神疾患に押し込めてしまう危険性があります.

 本特集では,そのつもりで探さないとなかなか診断がつかず,精神疾患と誤診される可能性のある疾患を取り上げました.換言すれば,外来または救急外来受診時のCBC,生化学スクリーニング,検尿,単純X線写真では引っかからないような器質的疾患を取り上げることになります.したがって,貧血,尿毒症,低Na血症,進行癌などは対象としていません.

 今日の診断技術レベルで器質的疾患が見つからないからといって「異常なし」または「精神疾患」とは言えません.多発性硬化症や重症筋無力症は,その昔は非器質的として扱われていました.一方で,まれな疾患(Zebra)をどこまで追いかけるのかという問題もあります.これは1次医療機関と3次医療機関では対応が異なります.1次医療機関ではまれな疾患の診断確定は求められていません.しかし,3次医療機関にはそれが期待されます.

 器質的疾患を見逃さないために以下の経験則は参考になると思います.

 1) 以前に同症状の既往がなく,突発性,急性,亜急性に発症している病態は安易に「精神的疾患」に帰してはならない(1次医療機関ではここで3次医療機関に紹介する必要があります).

 2) 要精査と考えられる場合,ルーチンのスクリーニング検査(甲状腺機能を含む)に加えCK,補体,ACTH,コルチゾール,頭部MRI,脳波,脳脊髄液,胸腹部CTによるチェックを考慮する.

 3) 2)の精査でも病態不明の時には,複数の医師間および精神科医(または心療内科医)とも十分に議論する(昔から精神科の教科書には「身体因→内因→心因」の順での病態考察を勧めています.器質的疾患を見逃さないようにしながら全人的医療を展開するためには精神科医との連携は重要だと思います).

 最後に,それでもやはりMUSと分類せざるを得ない病態は残ります.そのような場合に,患者の苦しみに共感を示し,症候増悪の悪循環に陥らないようにアドバイスするのもジェネラリストの真骨頂が発揮されるところです.下記の文献は非常に役立ちます.

1)Dowrick C, Rosendal M:Medically unexplained symptoms. In Gask L, et al(ed):Primary Care Mental Health. pp156-173, Royal College of Psychiatrists, 2009.