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JIM 2010年11月号(20巻11号)

疲労とだるさと生活と

伊藤 澄信(国立病院機構本部総合研究センター臨床研究統括部・治験研究部)


 私事であるが,最近「ごみ屋敷の清掃」に1カ月を費やし大変疲れた.日本家屋は押入れという広い収納スペースがある.そのなかには使わない物や使い古した物が集積している.もったいないという思想は大切である.しかしながら,ごみ屋敷というのは恐ろしいところで,押入れのなかから古い寝具とともにネズミやゴキブリの糞は出てくるし,家具の後ろには2cmほどほこりが堆積している.病気になるのが当たり前だと思った.ごみ屋敷に住んでいながら健康でいられる父親がおかしい.ごみ屋敷の主(母親)が喘息・心不全で入院したのを契機に主も同意したため片づけることができた.ごみ屋敷を整理して1カ月,母親の喘息発作は起きていない.吸入ステロイドのコンプライアンスがよくなったのかもしれないが,生活環境の重要性を改めて感じさせられた..

 日常的に肩は凝るし,だるいし,やる気はでないし,仕事はしたくない.慢性的な疲労感はVDTを使う人の7割の人が感じている(厚生労働省平成20年度調査)といわれると,自分だけではないのかと安心してよいのかストレス社会を心配すればよいのか迷ってしまう.本特集では,慢性的な疲労感の原因が「過剰産生される酸素ラジカルが重要な蛋白や脂質を酸化し,細胞障害をきたし,それを感知した免疫系細胞が出すサイトカインが脳神経系,内分泌系に働き,その際にエネルギーが十分でないと疲労が遷延する」「乳酸は疲労物質ではなく疲労回復に役立つ物質」「セロトニン系疲弊仮説」など驚きの知識を提示していただいた(渡辺論文).疲れを引き起こす内科的な問題はさまざまで,慢性疲労症候群だけではないことは当然であるが,鑑別診断,小児慢性疲労症候群,緩和ケア,産業領域などジェネラリストが対応に迷う項目を詳述していただいた.スポーツに伴う急性疲労と慢性疲労はかなり異なる.急性疲労の回復には積極的休養としての整理体操が重要であること,冷却刺激と温熱刺激の交代浴やストレッチングが有効であることなど,明日から話題にできそうなトピックスもお書きいただいた.

 酸素ラジカルを撃退すれば疲労がとれるのであればと,抗酸化物質のビタミンEなどに効果が期待されていたが,βカロチン,ビタミンE,ビタミンAなどのサプリメントは死亡率を上げるというメタアナリシス(JAMA 297:842-857, 2007)もある.疲労回復の特効薬は期待薄かと思っていたが,イミダペプチドが有効とのことである(梶本論文).今回の特集では取り上げていないが,疲れの解消には巷ではアロマやつぼマッサージを勧めるネット記事もある.疲れの回復には交感神経を刺激しないことが重要かもしれない.

 情報のスピードが上がり続ける社会のバブルはどうなっていくのだろう.電子メールの洪水に溺れかかっているので,仕事のメールが来ない日は少し幸せな気分である.こうした日は頭のなかのセロトニン神経系の活動が正常化しているのだろうか.