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JIM 2008年12月号(18巻12号)

家庭医,ビジネス書に出会う

藤沼康樹(日本生協連医療部会家庭医療学開発センター)


今月号の特集は「医師のためのビジネス・スキル」であるが,執筆していただいた方の多くは若手の医師である.

この2年くらい,彼らに触発されて,僕自身ビジネス書を時々手に取るようになった.

とくに印象に残っているのは,梅田望夫(著)「ウェブ進化論-本当の大変化はこれから始まる」 (筑摩書房,2006.)である.

この本はGoogleという驚異的なベンチャー企業を題材に,ネットの強力な検索機能が何をもたらすのか?そして,個人のPCがスタンドアローンではなく,ネットの海の中の端末のひとつに過ぎなくなるときに,どんなビジネスが可能になるのか?に関して,一般人に理解可能な形で書かれている.

とくにロングテール・ビジネスのコンセプトには驚愕した.ある特定の商品(たとえば書籍)に関しては,よく売れるもの上位20%が全体の売り上げの80%を占めるとされる.あまり売れないもの,たとえば年に1~2冊しか売れないようなものによって占められる残りの80%は,通常の商店では取り扱うことができない.しかし強力な検索能力と,ネットの「向こう側」での取引が組み合わされば,この売れないもの,あるいは,ニーズは小さいが確実に求められているものが,商品として存在し,ビジネスとして成立するのだということである.インターネット書店amazon.comがその代表である.

そして,もうひとつ,僕自身の生き方にも影響を与えそうなビジネスコンセプトに出会った.「社会起業家(social entrepreneur)」というモデルである.

これは,なんらかのイノベーションを通じて,社会の矛盾や問題を解決するために,ベンチャー企業を立ち上げ,経営的にも成功すことを目指す人のことである.この場合,この企業の成功は経営的な健全さと社会変革への影響により評価される.

たとえば,ある発展途上国の女性の生活水準を向上させるために,現地で衣料品の会社を立ち上げ,彼女たちを雇用し,訓練し,製品を先進国に輸出し利潤を上げ,さらに現地の雇用を増やすような起業形態が挙げられる.

この場合重要なのは,この会社の製品の質が高く,デザインセンスもすぐれており(=イノベーション),商品力そのものが高くなければならないということである.このイノベーション,経営,社会変革が結びつくような考え方は,30年前にはおおよそ考えられなかったが,インターネットがその土台にあることは疑いない.

地域医療の崩壊が叫ばれて久しいが,ロングテール時代の社会起業というコンセプトが,それらに対する突破口のひとつになる,と考えるのは僕だけだろうか?