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JIM 2007年12月号(17巻12号)

もしも君が望むのなら

松村 真司(松村医院)


 早いもので今号は2007年の最終号である。みなさまのお手元に届くのはもう年の瀬であろう。さて,年の瀬といえばいつの頃からか格闘技中継が大晦日のテレビ番組の定番になっている。よく考えると古くからの定番年越し番組,紅白歌合戦も,赤組・白組で勝ち負けを決める「合戦」のスタイルをとっている。過ぎゆく年を振り返り,この一年に起きた問題は今年のうちに決着をつけよう,という潜在意識が,格闘技や歌合戦といった対決スタイルの番組が大晦日に人気を博すことに反映されているのかもしれない。

 というような発想で,本年の最終号であるこの特集「論争の現場を見にいく」は企画された。いつの時代でも,どんな社会でも,決着のつかない問題は限りなくあり,そしてそれは医療という分野においても同様であろう。Aという意見を述べる人もいれば,Bという意見を述べる人がいて,どちらが正しいのか,それともどちらも正しくないのか,その判断は大変難しい。格闘技のように直接争うのがもっとも明確であり,それが臨床試験や介入試験というものなのだろうが,それには猪木と馬場の直接対決のように実施上さまざまな困難がたちはだかる。したがってしばしば直接対決なしで決断を下さなければならないことになり,それは政策決定のようなマクロの決断でも,目の前の患者のようなミクロの決断でも同様である。とはいえ,あまり肩肘はらず,あくまで大晦日の格闘技中継を見るように楽しみながらお読みいただきたい。

 総論として,わが国の医療政策決定のプロセス(広井論文),およびこれらの論争に影響を与えるメディアの役割(北澤論文)についてご解説いただき,各論として注目されているいくつかの論争について,論点を整理したうえで各著者の自由な意見をご執筆いただいた。もちろん議論になっているような点は,決着がつかないから議論になっているのであり,異論があって当然である。あくまで,読者それぞれの立場からの意見で最終的には判断していただきたい。

 さて,皆様にとって2007年はどんな年だっただろうか。『JIM』の読者の多くを占める臨床医は,危機的状況の中で精一杯の対応に追われていたのではないだろうか(少なくとも私はそうである)。とりわけ今年は,いろんな意見をいう人がいて,いろんなことに対応しなければならず,じりじりと厳しい状況に追い込まれていっている人が多かったように思われる。また本来パートナーであるはずの患者と医師の距離が急速に離れつつあるように感じることも多くなっている。人がいるところに争いが起きるのは必然である。しかし,その争いを止めるのもまた人間である。


 争いは終わる,もしも君が望むのなら。そう歌った本人はとっくの昔に死んでしまい,いまだに戦争は続いている。争いを終えるために,私たちはただ望んでいるだけで本当によいのだろうか。2008年。新しい年は,私たちにとって覚悟を決める年になるだろう。

HAPPY XMAS(WAR IS OVER)
Words & Music by John Lennon and Yoko ono・ LENONO MUSIC and ONO MUSIC
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