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JIM 2007年9月号(17巻9号)

弱点補強型オタクとしての家庭医

藤沼康樹(日本生協連医療部会家庭医療学開発センター)


 僕が医者の働き方として「家庭医」を選んだ理由は,いろいろな人の相談にのれて,地域で役に立つ仕事がしたいということにありました。生後数カ月の子どもから,100歳を超えたお年寄りまで,幅広い年齢層のさまざまな健康問題に取り組みたいと思ったのでした。オムツかぶれの治療と,高齢者の看取りを同時にやることに自分自身の価値を見出したのです。しかし,当然,医者一人がやれる仕事の総量は限られていますから,一つの病気の診断と治療をすすめて,最後まで診切るようなタイプの「深さ」を犠牲にすることになります。仕事のバリエーションや広さを,「深さ」よりも優先したともいえます。このことは僕の性格や価値観によるところもありますが,「一つのことをずっと深く追求することがいいことだ」という現代医学界の主たる価値観になんとなく違和感を覚えていたことにもよります。

 得意なところを伸ばしていく,追求していくことは楽しいことですし,快感があります。僕もかなりオタク的な志向がありますから,よくわかります。家庭医が家庭医たるゆえんの一つに,非選択的診療(どんな問題にも相談にのること)がありますが,このスタイルと好きな分野を追求していくことの間にはギャップがあります。それはどんな問題が持ち込まれるか「予習」が難しく,またそれが自分の興味とは関係ない場合も多いからです。いわば,常に自分の弱点と直面する仕事ともいえます。ただ,オタクの特徴として,一つのことを深く追求するとともに,その関連分野全般に物知りであることがありますが,幅広い分野で物知りになるという点に喜びを見出すところが家庭医にはありますので,家庭医にもオタク的な素養が必要なのだろうと思っています。

 さて,今月号は家庭医に必要な小児保健(child health)を取り上げています。都会型家庭医に必要な子どもの診療の要素として,以下の4つがあげられます。

(1)予防接種をはじめとした予防的介入
(2)乳児健診によるゲートキーパー機能と育児支援
(3)“笑って”来院する日常病の子どもの診断・治療(重い症状の子どもは直接病院に行きます)と専門医への適切な紹介
(4)家族志向性ケア,すなわち一家の主治医機能

 これらの分野に取り組むことができるようになると,家庭医としての仕事が,実に家庭医らしくなります。そして,今月号はこの分野が弱点であると思っている先生方に役に立つ論文が満載です。ぜひ,座右に置いて活用されることを願っています。