Editorial

マイナーエマージェンシー門外放出
安藤 裕貴
社会医療法人杏嶺会 一宮西病院 総合救急部 救急科

 私がER型救急医として臨床を続けていくなかで、支えになっている言葉があります。

 私の師匠は福井大学名誉教授で、前救急部・総合診療部教授の寺澤秀一先生です。その寺澤先生が、今から40年前に単身北米でER型救急を学んでおられた時に師事した医師が、ある本の序文にこのようなことを書いていました。

 “一見軽症に見える患者達のなかに紛れて受診する致命的な疾患の患者を見つける診療を、あまり時間とお金をかけないでやるには、高度の専門知識と経験が要る。”

 この本こそ、かの有名な『マイナーエマージェンシー』1)であり、この文章を書いた人こそ、北米で“救急の父”と言われ、かの有名な救急の教科書『Rosen’s Emergency Medicine』2)を執筆したピーター・ローゼンでした。ピーター・ローゼンは残念ながら昨年お亡くなりになりましたが、彼が残したこの言葉は、世界中の多くの医師のなかに残っていると思います。

 『マイナーエマージェンシー』1)の本の序文に出てきた「一見軽症」という言葉には深い意味がありそうで、マイナーエマージェンシーが本当にマイナーエマージェンシーであって致命的疾患ではないと否定できなければ、マイナーエマージェンシーの対応はできない、という高度な判断がその裏側にあると思っています。

 「一見軽症に見える患者」とは、必ずしもウォークインで我々のもとにやってくるだけでなく、救急車で搬送されるなかにも多くいます。そのなかに紛れて受診する致命的な疾患の患者を、あまり時間とお金をかけずに見つけることに価値を置けるかどうかが、我々の存在価値なのかなと今でも思っています。ということは、マイナーエマージェンシーに習熟することは、高い次元の救急医やジェネラリストになるには欠かせない要素なのかもしれません。

 当然ながら、この域に達するためには、相当広範囲なマイナーエマージェンシーに習熟する必要があります。本特集で触れた内容は、広大な海のように広がるマイナーエマージェンシー海のわずかではありますが、今回、門外に放出させていただきました。少しでもそれぞれの地域でのプラクティスでお役に立てれば、企画者として幸甚であります。

 それでは「マイナーエマージェンシー門外放出─知っておくと役立つ! テクニック集」、どうぞお楽しみ下さい。

文献
1)Philip Buttaravoli他(著),大滝純司(監訳),齊藤裕之(編):マイナーエマージェンシー 原著第3版.医歯薬出版,2015.
2)Ron Walls MD, et al : Rosen’s Emergency Medicine ; Concepts and clinical Practice ; 2−Volume Set, 9ed. Elsevier, 2017.