Editorial

疲労を診る、わかることの難しさ
片岡 仁美
岡山大学病院 総合内科・総合診療科/ダイバーシティ推進センター

 私が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の患者さんに初めて出会ったのは、数年前である。元気いっぱいだった高校生が、ある日突然、異常な身体のつらさで動けなくなり、学校にも自力では行けなくなって、私の外来に来られた。明るく笑顔が素敵で顔色もよく、見た目は普通の高校生に見えたが、症状は彼女の日常生活を一変させていた。ME/CFSを疑い治療することになったが、私も手探りで学びながら患者さんとご家族と二人三脚のような治療経過であった。初めての患者さんを経験して以来、どういうわけか次々に似たような患者さんが外来に紹介されてくるようになった。1人ひとり少しずつ表現型は違うが、はっきりとした病歴の特徴があり、自分のなかでME/CFSの病像のイメージがどんどん明確になってきた。同時に、「今まで同じような患者さんを見抜けていなかったのではないか」とも感じた。

 そんな折、患者さんの1人が「この本、すごくいいので、先生にも読んでほしくて」と貸してくださったのが、特別メッセージ(p.792)で紹介した、ゆらりさんの『ある日突然、慢性疲労症候群になりました。』(合同出版、2019)という本である(p.792・884)。「この本には、私が表現したかったことが全部書いてあるから」とのことであった。また、別の患者さんのご家族は、「自分は家族の症状や言っていることをわかっているつもりだったけど、ぜんぜんそうじゃなかった。あの時の言葉、こういうことだったんだ、と1つひとつが今になって理解できて、わかってあげられてなかった、という気持ちで涙なくして読めなかった」と、診察室で本を取り出しながらおっしゃった。私自身この本を読み、今目の前にいる患者さんのつらさを本当にわかっているのか、と自問した。

 次に印象的な患者さんに出会ったのは、本誌の編集委員になったあとのことであった。何年も診断がつかず、「怠けている」(p.797)と言われ続け、苦しみ続けたその方のお話を聞いて、私は「ME/CFSをいつか『総合診療』で特集しなければならない」と何かに駆り立てられるような気持ちになった。それは、初めての患者さんに出会うまで、この疾患について深く知らず、おそらく見ているのに「見えなかった」過去の自分と、ともすれば「わかっているつもり」になってしまいがちな現在の自分への自戒でもある。

 本特集を組むにあたって、倉恒弘彦先生(p.797・800)には何度もご相談させていただき、的確なご助言を頂戴した。ME/CFSの第一人者である倉恒先生の全面的なバックアップのもと、超一流の先生方がご執筆くださった本特集は、さまざまな角度から「疲労・倦怠感」に深く向き合っていただく機会になるのではないかと考える。