Editorial

こどもたちの未来のために
笠井正志
兵庫県立こども病院 感染症内科
児玉和彦
医療法人 明雅会 こだま小児科
鉄原健一
九州大学病院 救命救急センター/小児科

「日本小児科学会は、小児科学に関する研究と小児医療との進歩、発展をはかる」(日本小児科学会ホームページより)。小児の「科学」を探求することが、こどもたちのために重要であることは言うまでもない。しかし、小児医療を進歩・発展させるのは、(動物)実験や高度な検査機器、RCTなどの統計学の世界だけではなく、「現場」にもある。

詳細な病歴聴取、再現可能な身体診察から得た仮説・推論を行い、常に誤りを探求する。このような現場目線で「小児科」を「学」ぶことも、小児科の魅力であるのではないかとずっと考えてきた(そうしたら“HAPPY”〔p.275〕に出会った)。患者・保護者から聴くこと、手で触れること、患者と交流すること、そこを目指す最高の臨床医(小児科医だけではなく家庭医・総合診療医も)、彼らを目指す若手医師などの共通の目的をもつ人たちの組織(≒学会)もあってもよいかもしれない。それが、本特集の著者たちであり、想定読者である。「新日本小児科学会」の幕開けとなるエポックを画する1冊となった(かもです)。(笠井)

「マーブル」

もしあなたに、「小児科医向けに“内科診療”の特集を企画してほしい」という依頼がきたらどうしますか? あれもこれも伝えたい。一筋縄ではいきません。

内科から歩みを始め、家庭医療に出会い、小児科を学び、今は東洋医学・鍼灸医学も実践している私には、どれも専門性が高く、「統合」は難しく、医学は“マーブル模様”にみえます。

今回は、「総合診療医向けの“小児診療”の特集」です。入門的であっても、専門性がにじみ出る正直な文章を書く「濃い」執筆陣が、小児診療は「膨大で」「甘くなく」「不断の勉強が必要」ということが伝わる原稿を寄せてくれました。それは、「総合診療」と同じなのです!!

「輝く石」という意味を語源にもつマーブル(大理石)は、加工次第でどんな形にもなります。無理に色を混ぜるのではなく、医療という1つの作品で、それぞれの色のままで輝く愛あふれる世界。それでいいんだ。本特集が、そんな未来を描く一画目となりますように。(児玉)

「優しさだけじゃ生きられない」(Mr. Children)

こどもの診療において、“優しさ”とは何だろう? 同じ目線の高さで語りかけること? こどもが安心できる雰囲気をつくること? 家族が安心して診察室を後にすること?

そのような優しさだけでは生きられない。五感を研ぎ澄ませ、見えているものを見尽くし、音から動きへ変換し、指先から皮膚の中で起きていることを想像し、病態を把握する技術・姿勢が、本当の“優しさ”ではないだろうか。本特集は、そんな“優しさ”を目指したいと企画した。

「総合診療」の中には“優しさ”の種がたくさんある。それをみんなで咲かせていき、”優しさ”に満ちた世界になればと夢見ている。(鉄原)