Editorial

自分の無力さを日々痛感するとともに、
「結局は人とのつながりである」と実感する。

佐田 竜一
天理よろづ相談所病院 総合診療教育部

 指導医として研修医に適切な知識や態度を指導する立場である私は、毎日発生する日常の疑問(clinical question:CQ)を解決することの難しさを、日々感じます。できることなら、誰かに的確で明快な「答え」を教えてもらって、それを研修医とシェアできれば、こんなに楽なことはないのに……と思う手抜き指導医です。しかし、そういった手抜きの方法は、残念ながら(現時点では)なく、患者さんへの最善の医療を知るために、毎日教科書やパソコンを手に悪戦苦闘しています。そうした私自身の苦闘をサポートできないか(というか自分の助けにならないか)という疑問(CQ?)をもとに、この企画を立ち上げました。

 多くの素晴らしい先生方にご執筆いただき、私のCQに答えとも言うべき明るい光が差し込んできたことに、心より感謝申し上げます。自分1人ではこのCQを解決することはできませんでしたが、拝読した直後から「使えるスキルやツールが目白押しだ!」と感動しました。本当に、これらすべての稿をご参照いただき、明日からの自己研さんに役立てていただきたいですし、自分も役立てたいと思います。

 そのうえで、個人的な感想を述べることをお許しいただければ、清田雅智先生(p.21)の「高山の圧痛点」についての壮大なケースレポートを含むreviewに大変感銘を受けました。偉大な先生方が日々積み重ねていらっしゃる、経験に基づく知の収集技術をぜひ真似したい、と強く感じました。私は現在の勤務先で、CQを解決するメールを定期的にレジデント宛に配信していますが、自分の知の洗練スキルの不十分さを痛感しました。そして、清田先生の論文にもありましたが、「人的ネットワークこそ最良の検索源」であることを、本企画を通して実感できました。自分は無力ですが、人と人とのつながりで、このような壮大なCQも解決可能なのだと……。

 また、佐藤寿彦先生(p.65)の「人工知能(artificial intelligence:AI)」と近未来の医療についてのreviewも、きわめて刺激的でした。AIは、あくまで診療や自らの疑問解決の一助であり、われわれの悩みをすべて解消してくれる(ないしは医師としての能力をスポイルする)ものではないようです。結局のところ、

自らに毎日降ってくるCQを洗練させ、
CQを成書や文献をもとに解決しつつ、批判的吟味により自分の患者さんに外挿可能か検討し、
こういった知の洗練を毎日たゆまず行う

という本特集における一連の流れは、少なくとも今後数十年は必要になりそうです。残念だと言うべきか、少しホッとしたと言うべきか……。