Editorial

みんなの力で
岡部 竜吾
伊那市国保美和診療所

 筆者は30年前に、当時“スーパー・ローテート”と呼ばれた多科をローテートする初期研修で医師の人生をスタートした。当時、スーパー・ローテートはメジャーでなく、受け入れ側にも迷惑をかけながらの研修であった。内科を回ると、「外科の医師は患者管理がずさんだ」と言われ、外科を回ると、「内科の医師は決断が遅い」などと言われていた。「どちらにも良いところがあるのにな」と思った。

 その後、外科系の総合医として地域医療に携わったが、ここでも「専門医は、限られた自分の領域しか診ない」とか、「総合医は、得意な専門性がなく曖昧な存在だ」などと互いの批判がなされた。

 その後、漢方を使うようになったが、西洋医学の医師からは「極東のマッシュルームを使うような漢方医学は、エビデンスも未熟で確実性が担保されず、信用できない」などの発言も聞いた。さらに漢方の世界に入れば、「中医学は理論だけだ」とか、「日本漢方は歴史の浅い経験則だけだ」などの批判のし合いや、各流派ごとの批判や不仲を目にしてきた。

 筆者はいつも、「どちらにも良いところがあるのにな」と思ってきた。

 現代医学と東洋医学を併用できるのが、日本の医療の特長である。総合診療の場にも、多彩な訴えをもつ患者が訪れ、診断がつき、標準的な現代治療を行っても、患者の愁訴の改善につながらないこともある。そんなときに漢方薬を使用すると、問題解決につながることがある。患者のためには「みんなで力を合わせて」取り組むことが大切だと思う。

 本誌26巻3号の漢方特集で総論をご執筆いただいた松田邦夫先生(松田医院)は、私が診療に陪席した際に、「一つの領域に、多彩な考えを持った人たちがいるのがよい。みんな仲良く互いを尊重し、力を合わせて発展させてほしい」と言われた。

 今回も前特集(26巻3号)に続き、漢方の流派を超えた名医の先生方の力で、素晴らしい特集ができた。野球に例えると、まさに「オールスター夢の球宴」である。

 総論の佐藤弘先生は、医師の謙虚さと患者の希望をつなぐ大切さを述べられている。また各流派を超えた漢方名医の先生方に、証(漢方医学的病態)や症候ごとに、いくつかの特徴を目安に使用でき、初学者でも効果を実感できるお薦めの処方を、典型的臨床例と共に紹介していただいた。さらにコラムでは「漢方の挑戦」と題し、野崎高正先生と小泉桂一先生には漢方の新しいあり方を想起させ、わくわくする論文をお書きいただいた。また、新たな試みとして木村容子先生にお願いして、漢方の診察法(フィジカル漢方)を動画で見られるようにしていただいた。

 それぞれの垣根を越えて、患者のためにみんなで力を合わせ、診療に対し謙虚で冷静な目をもち、それでも、「患者の希望をつなぐ」(佐藤先生論文、p.1614)医療を行っていきたいと思う。

 「医学が不確実だからこそ、希望がある」(佐藤先生論文、p.1614)とも言えるのである。