Editorial

“ピストルアプローチ”のすすめ
徳田安春
臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄

 「病歴と診察で診断できない発熱」ケースについての対応の仕方が、本特集のテーマである。とはいえショットガンアプローチ的に「検査をガンガンやりなさい」、と言いたいわけではない。検査ではショットガンではなく、やはり“ピストルアプローチ”をおすすめしたい。

 過剰な検査は結果として時にミスリードする。コストもかかる。なので、まずは病歴と診察を「ちゃんととる」ことが必要となる。

 病歴では、渡航歴、性行渉歴、動物接触歴、特定の環境への曝露歴などが抜けているケースをしばしば見かける。診察では、眼底の観察、口腔内の診察、直腸診などが抜けているケースをしばしば見かける。心臓の聴診などもそうだ。

 一見全く元気そうな患者さんで、感染性心内膜炎のケースを時折見かける。感染性心内膜炎における心臓の病変は逆流性雑音をきたすので、逆流性雑音を積極的に聴きにいくのだ。そして血液培養をとる。心エコー検査をやる。そういうアプローチが、“ピストル”なのだ。発熱患者さんを診る医療機関では、「血液培養検査」を置いていないといけない。病院だけでなく、診療所でも同様に。

 炎症反応の検査ではCRPが人気だが、ESRも有用な検査だ。CRPとESRをうまく組み合わせて解釈することにより、発熱ケースの鑑別診断を効果的に進めることができるようになる。そういうことから、私はESRをよく利用している。

 尿検査も重要である。白血球尿や膿尿だけでなく、赤血球円柱などの病的沈渣や蛋白尿にも注意することをおすすめする。沈渣で赤血球があれば、その形態をみることにより、糸球体由来かどうかの評価が可能になる。

 外注検査では、抗核抗体や疾患特異抗体が、ショットガン的によく提出されることがある。しかし、たとえば、臨床的に全身性エリテマトーデスを疑う所見が全くなければ、これらの検査を行う意義は乏しい。また、全身性エリテマトーデスを疑うような所見が少しはあった場合でも、「まずは抗核抗体を提出して、これが陽性であれば疾患特異抗体を提出する」というのが常道である。

 日本は画像検査大国である。人口あたりのCTやMRIの保有台数を国際的に比較してみれば、一目瞭然である。CT検査で「異常なし」、とされた場合によくあるのが、造影されていないケースである。造影なしのCTでは、膿瘍は見つかりにくい。また脊椎炎の初期では、通常のMRI画像条件では見つかりにくい。STIR条件での撮像が必要となる。

 最近はPET検査が広まっている。確かに細胞性動脈炎や血管内リンパ腫の診断が、これにより早期に行われたというケースが見られるようになった。しかしながら、診療の初期からPET検査を行うようなショットガンアプローチでは、その不明熱診療の価値は高いとは言えないだろう。

 本特集では、病歴と診察をちゃんと行ったうえでの“ピストルアプローチ”による、賢い検査選択と解釈方法について、発熱診療のエキスパートの先生方にご執筆をお願いした。座談会では貴重な経験症例についてのエピソードも語っていただいた。読者のみなさんが、明日からの診療に活かせるような特集となれば幸いである。