Editorial

沖縄の風に吹かれて
ジェネラリストの役割を考える

山中克郎 諏訪中央病院総合内科

 高齢化社会を迎えた日本では、「下流老人」と呼ばれる貧しい高齢者が増えている。日本の相対的貧困率は16%であり、OECD加盟国34カ国のうち、6番目に高い数値だ。高い医療費は高齢者の生活を圧迫する。どのような医療がこれからは求められるのであろうか。過剰診療に対して警告を鳴らす“Choosing Wisely”の運動は、日本でも徳田安春先生らを中心に広がっている。

 インターネットにアクセスすれば、誰でも最新の医学知識を得ることができる。しかし、医療は知識だけでは十分でない。「それは辛かったですね」と共感しながら患者の話に耳を傾けることは、患者の心に安らぎを与える。丁寧な診察で直接身体に触れることは、診断のみならず、患者からの信頼を得るために大切な手技なのだ。「巨大な知」と「患者の心」をいかに結びつけるかが、AI(人工知能)時代における医師の大切な役割だろう。

 情熱を持ち、粘り強く努力を続ける「グリット(grit)」という能力が注目されている。生まれ持った才能とは関係のない能力である。ロールモデルを心に抱き、「こんな医師になりたい」と、凄まじく思い(ここが大切!)、日々たゆまぬ努力を重ねることが成功の鍵のようだ。


徳田安春 臨床研修病院群プロジェクト群星沖縄

 沖縄が臨床医学教育のモデルとなりえたのは、沖縄県立中部病院のプログラムの存在が大きい。その基礎を作られたのは、米国から来日した指導医師団の初代団長N. L. Gault, Jr先生(1920-2008)であった。ここではGault先生の足跡について紹介したい。

 まず、時は遡って1950年代。朝鮮戦争後の韓国で、米国ミネソタ大学に依頼してGault先生がソウル大学に招聘され、韓国の医学教育改革を実行した。これは“ミネソタ・プロジェクト”としてのちに世界的に有名になった。

 その後、台湾でも同様な医学教育改革を行ったGault先生は、続いて1967年にハワイ大学から依頼され、沖縄県立中部病院のプログラム立ち上げに着手された。

 「プライマリ・ケアと救急医療を主軸とする医師の養成が社会には最も重要」とするGault先生の臨床教育理念は、どの国のプログラム作成時にも一貫していた。その理念を国全体で継承した韓国は今、“ミネソタ・プロジェクト”の韓国版を作り、中東やアフリカへ医学教育システムを輸出して世界戦略に着手している。

 「私たちが養成すべき医師の大部分はジェネラリストであるべきだ」とするGault先生の理念は、今も私たちの身体の中で燃え続けている。