Editorial
ジェネラリストの専門性とは何か

藤沼 康樹
医療福祉生協連 家庭医療学開発センター,千葉大学 専門職連携教育研究センター

 いよいよ総合診療が19の基本専門領域の1つとして認められることになり,「総合診療専門医」が日本に誕生する道筋がつくられることになった.

 日本の総合診療の特徴は,診療所をフィールドとする「家庭医」と,病院をフィールドとする「病院総合医」のハイブリッドとして考えられているということである.こうした“ハイブリッド型”の専門医像は,世界的にみてもあまり例がない.そして,地域のニーズに合わせた活動の場の多様性に,その特長がある.

 既存の診療科との違いが明確ではない,といわれることも多い.しかし,そうした各科間の境界線を設定しようとする試みは,重大な問いを覆い隠す可能性がある.それは「総合性=Generalismとは何か」という問いである.「これがあればジェネラリストといえる」という「専門性=Expertiseは何か」ということである.

 日本の総合診療は,「エキスパート・ジェネラリストとは何か」ということを根本的に考えねば見えてこない.ジェネラリストの専門性を実地診療で発揮しているなら,専門科と関係なく「総合性をもった医師」といえるだろうが,それは“ナチュラルボーン・ジェネラリスト”であろう.つまり,そもそも資質がジェネラリストのマインドセットにフィットしていた,あるいは,たまたま上司がジェネラリストの価値観をもって診療をしていた,といった“偶然性”に多くを依存したタイプのジェネラリストである.かくいう僕も,正規のプログラムを経ているわけではなく,上司が優秀なジェネラリストであり,研修の場が地域だったということで,海外の家庭医からは“Self-taught family doctor”と呼ばれていたりする.したがって,総合診療医は“ジェネラリストとしての特別のトレーニングを受けた医師”と言い換えたほうがよいのだが,ジェネラリストの専門性を言語化し,教育できるためには,従来の医学・医療パラダイムをメタ認知しなければならない.

 では,ジェネラリストの専門性とは何か? この数年,この領域で精力的に研究しているReeveら 1) によれば,それは「未分化な健康問題」「複雑な問題」「きわめて幅広い健康問題」に対応できることであり,そのために「診断治療技術」「ケアの継続性」「患者-医師関係構築」という患者次第でフレキシブルに対応する領域に加えて,どんな患者でも普遍的に適用する「患者と医療者の共通基盤の形成」「解釈的医療Interpretive medicineの実践」を組み合わせられることだという.

 僕の考えでは,ジェネラリズムについて根本的に考えるうえで重要な領域が「多疾患併存」の問題である.今回のマルチモビディティ特集のねらいは,実は「ジェネラリストの専門性」について深く考えるところにあり,「総合診療とは何か」という問いに答えようとする試みでもある.この領域の研究と教育を今後数年で相当進めていくことが,日本の総合診療の離陸のために必須となるだろう.

文献
 1)  Reeve J, et al : Examining the practice of generalist expertise ; a qualitative study identifying constraints and solutions. JRSM Short Rep 4(12) : 2042533313510155, 2013.