ユーザーインタビュー 電子辞書と紙の辞書の未来 top
【酒井邦嘉(さかい くによし)先生 略歴】
1964年東京生まれ。
東京大学理学部物理学科卒業。同大大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)後、同大医学部第一生理学教室助手、
ハーバード大学医学部リサーチフェロー、マサチューセッツ工科大学客員研究員を経て、
1997年より東京大学大学院総合文化研究科助教授・准教授。2012年より同教授。
2002年第56回毎日出版文化賞、2005年第19回塚原伸晃記念賞受賞。
専門は言語脳科学および脳機能イメージング。
主な著書に『脳を創る読書』(実業之日本社)、『言語の脳科学』、『科学者という仕事』、『遺伝子・脳・言語』(以上、中公新書)、
『脳の言語地図』、『脳でわかるサイエンス① ことばの冒険』(以上、明治書院)などがある。
研究室URL:http://mind.c.u-tokyo.ac.jp/index-j.html
Q 電子辞書『DF-X11000』購入のきっかけは?
2011年に『脳を創る読書』(実業之日本社)を執筆したこともあり、
「電子辞書」の最新版の動向や特徴を知ることが必要だと感じたためです。
Q 電子辞書と紙の辞書のそれぞれの特長について、
どのようにお考えですか?
まず、紙の辞書の優位性としては「一覧性」「記憶の定着」があります。「検索スピード」についても、必ずしも電子辞書に劣るものではありません。一方、電子辞書の優位性としては「一括複数辞書検索」「音声機能」「情報量(例文検索)」があげられます。
一覧性
紙の辞書は一度に目に入る情報量が電子辞書に比べると圧倒的に多いです。電子辞書の画面は小さく、派生語や成句などの関連する情報を探すためには絶えずスクロールをしなくてはなりません。また、スクロールをしている間に必要な情報を見落とすこともあります。
記憶の定着
記憶の定着を図るには、どれだけタグを付けられるか、書き込んで跡を残せるかが大切です。電子辞書の機能に「履歴」照会もありますが、関連性の無い単語が並んでいるだけで、電子辞書は記憶に残りにくいところがあります。紙は、頻繁に調べた単語のページには折り癖もつき、自分の書き込みの跡などが残っていて、思考の手がかりとなりやすいのです。
検索スピード
確かに、電子辞書は見出しの単語に到達するまでのスピードは速いと思います。しかし、使い慣れた紙の辞書は、おおよそどこに何があるか見当がつくので“急がば回れ”で、知りたい情報を得るまでのスピードは紙の方が早いこともあります。
一括複数辞書検索
机上では、せいぜい数冊の辞書を広げることが限界です。一方、電子辞書であれば、数十冊以上の辞書を一度に検索することができます。
音声機能
授業中に学生の英語の発音を聞くと、母音の発音やアクセントの位置が特に不正確です。たとえば「glioma」などの頻出単語も間違えて「グリオーマ」などと発音していることがあります(正しくは「グライオゥマ」)。電子辞書ではネイティブの発音ですぐにチェックできることが利点です。以前に、合成音声を使って研究をしたことがありますが、やはり、ネイティブの発音にはかないません。
例文検索
自然科学系の論文執筆では、正しい英語の例文に触れることが必要です。その点、電子辞書は多数の例文が収録されており、論文作成の際に、とても参考になります。実は、Web上でも様々な例文が検索できますが、母国語が英語ではない研究者が書いた論文も多く、例文として適さないものも多いのです。
Q 電子辞書と紙の辞書の未来とは?
電子辞書と紙の辞書はどちらかを選択するような排他的な考えではなく、便利に使い分けるものだと考えます。現時点では、紙の辞書、電子辞書それぞれの良さがあり、それぞれの特長を使い分けることが必要です。このことについて、正しく認識をしていれば良いのですが、つい使い慣れた方に流れてしまいますし、また、学生に的確にそのことを教えられる人も少ないでしょう。今後、“電子辞書と紙の辞書の学習効果”について、しっかりとした研究データが提示されることに期待します。人間の知恵は素晴らしく、電子辞書も紙の辞書もユーザーの声を反映しながら今後も進歩していくものだと思います。特に、学生でも研究者でも文章を書かない人はいないので、文章を書くためのツールとして電子辞書を特化させると、より可能性が広がって、素晴らしい“思考のツール”になるのではないでしょうか。
SII セイコーインスツル株式会社 システムアプリケーション事業部 [販売]株式会社医学書院販売部