巻頭言
特集選択と集中で生き残る病院

本誌では,2020年2月号「病院の殻を破れるか」,同4月号「グループ化する病院」,同5月号「地域包括ケアで輝く病院」と,さまざまな角度から中小病院にスポットライトを当てて特集を組んだ.2月号において厚生労働省の迫井正深氏が2040年に向けた中小病院の展開として大きく「①疾患治療の拠点」として特定の診療科や診療分野に特化した専門病院型の展開と「②地域生活に寄り添うケアの拠点」として地域包括ケア型の展開の2軸を指摘した.今号はこのうち「疾患治療の拠点」を取り上げて特集とした.

はじめに2040年に向けた展開を考える中で,あらためて中小病院の推移と現状を概観し,さらに中小病院に関する先行研究をまとめた.次に,地域医療構想策定ワーキンググループ座長の尾形氏にこれからの中小病院の経営戦略について総括いただいた.具体的な経営戦略の考え方は『病院経営の教科書──数値と事例で見る中小病院の生き残り戦略』(日本医事新報社,2015年)著者の大石氏・小松氏にコンサルタントの立場から述べてもらった.

以上の論文からは,現在自院のデータをまとめていなくても,地域医療構想策定の過程でナショナルデータベースやDPCデータなどから自院のデータは既に丸裸になっていることが分かる.今後は,それらの客観的なデータを武器として経営戦略を立てることが重要となる.その中で,中小病院では競争より棲み分けにより生き残る戦略を組み立てることは,まだまだ十分可能だということが分かる.

各論として,本特集の要となる「疾患治療の拠点」として活躍する中小病院の戦略について,甲状腺専門病院として有名な東京の伊藤病院,乳がん専門病院として有名な鹿児島県の相良病院の両理事長,総合診療科で地域を守る試みをしている福岡県の頴田病院の院長にご寄稿いただいた.それぞれの経営戦略を見ると,ここ10年でもさまざまな試みがなされ,着実に成果を上げている様子がうかがえる.これは,これまでの病床規模で経営戦略を立てる時代は終わりを迎えることを暗示している.

最後になるが,巻頭では全日本病院協会副会長も務め,群馬県の脳卒中診療を超急性期から在宅まで垂直統合で専門的に行っている公益財団法人脳血管研究所美原記念病院の美原院長との対談をお届けする.対談を通して中小病院が解決していかなければならない課題について整理ができることを期待する.

本特集を踏まえて,これからは中小病院をひとくくりで議論できないこと,ポストコロナ禍の時代を考えると,ますます中小病院の動向から目が離せなくなることが予想される.

公益財団法人慈愛会理事長今村 英仁